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第358話 交渉

「突然すみません、少々お時間よろしいでしょうか?」


 女性は改まった様子で時雨達に視線を送る。

 呼び止められるような事をした心当たりはあるにはある。

 香が子供達に混じって歌を披露した事だ。

 それについて咎められるのではないかと時雨は思って、率先して頭を下げる。


「ステージを乱すような真似をしてすみませんでした」


「あっ、違うんですよ。これはですね……」


 時雨の真意を察した女性は大げさに両手を振って否定する。

 詳しく話を聞くために場所を変えようと女性の提案を受け入れる。

 時雨達は薄暗いステージ裏まで連れて行かれると、用意された小道具の椅子に腰を下ろす。


「そちらの方は歌がとてもお上手なんですね!」


 本題へ入る前に、まず香の歌唱力について女性は称賛の言葉を送ってくれた。

 結果的にステージ上で活躍する魚介レンジャーより目立ってしまい、台本を狂わし兼ねない展開になりそうであった。

 幸いにも、ステー上にいた人質役の女性や魚介レンジャー、イカ男爵が上手くまとめてくれたおかげで自然な流れに持ってこれた。

 歌を褒められた香は照れ臭そうな仕草をすると、時雨達の背後から数人の男女が現れた。

 その人物達に女性は声を掛けると、時雨達に簡単な自己紹介をしてくれた。

 どうやら、先程のステージで活躍していた魚介レンジャーとイカ男爵を演じていた人達のようだ。


「うは、マグロレッドの中の人って超イケメンじゃん」


 加奈が小声で時雨に耳打ちすると、たしかにその通りである。

 マグロレッド以外の人達も年格好は同じぐらいで、大学生だろうか。

 挨拶をそこそこ交わすと、どうやら彼等は元々大学の演劇サークルに所属しているらしい。

 最初はボランティアの一環で保育施設や介護施設に出向いて演劇を披露していたようで、評判はなかなか良かったようだ。

 地道な活動を繰り広げて行く内に、ある時戦隊ヒーローの脚本を手掛けたのだが、これが地元の子供達に大ヒットして、今ではご当地ヒーローとして活躍している訳だ。


「それでですね。一つお願いしたい事があるんですよ」


 人質役だった女性が人差し指を立てると、時雨達に願いを申し出る。

 その内容とは午後の部のステージに香を人質役として参加させたいとの事だ。


「私達、演劇は素人ですのでご迷惑になるのではありませんか?」


「その点はご心配なく。段取りとしてはイカ男爵が観客席に赴いて人質を取りますので、自然な流れで香さんを選びます。台詞としては『助けて! 魚介レンジャー』と叫ぶだけでOKですので、物語の終盤辺りで先程の歌を披露して下されば大丈夫です」


「なるほど、お話は分かりました」


 そこまでして香の歌唱力を買ってくれたのは素直に嬉しいのだが、時雨は一つだけ懸念している事がある。

 大勢の観客の視線が集まる中で、最後まで歌えるかどうかだ。

 先程は魚介レンジャーに夢中だった香は周囲の視線を気にせず歌えたが、今回はステージに上がって大勢の観客に見守られながら歌うのだ。


「是非やらせて下さい!」


 香は即決断を下すと、ステージに参加する気満々だ。


「引き受けて下さるのですね。ありがとうございます」


 参加が正式に決まってしまった。


(大丈夫かな……)


 個室のカラオケで歌うのとは訳が違うので不安が募るばかりであった。

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