第35話 時雨の正体を知る者②
昨日、加奈は学校に忘れ物を取りに戻って、時雨と凛が二人で真剣な顔で話し合っているのを見つけたらしい。声を掛けようとしたが、二人が良い雰囲気で語り出したので、最初の内は香と言う嫁がいながら浮気現場を目撃した野次馬の一人として隠れて観戦していた。
すると、二人の様子は加奈と違った展開を繰り広げる事になって、スマホで二人を撮り始めた。
時雨は心臓を掴まれたような衝撃を受けると、頭の中で何か都合の良い言い訳を考える。
「これを聞く限り、まるで生き別れた騎士とお姫様みたいよね。騎士が時雨で、お姫様が桐山先輩。最近、時雨が桐山先輩とくっ付いて行動しているのは只の先輩後輩の間柄じゃないような気がするのよねぇ」
加奈に核心を突かれると、時雨の表情は自然と強張ってしまった。
加奈とは中学生の頃に知り合ってから、勘の鋭い子だと時雨は認識していた。
テスト勉強も直前になって、時雨からノートを借りたりしてヤマを張るのが得意である。
「それは……演劇だよ。最近、面白い演劇を見たから、学校で憧れの的の凛先輩に頼んでそれっぽく演じてもらっただけだよ」
考え抜いた末の言い訳であるが、無理がある設定なのは百も承知だ。
真実を語ったとしても、前世や転生の話を信じてもらえるとは到底思えない。
それなら、多少無理を通してでも時雨が変人扱いされる事を覚悟して、凛の名誉を守ってこの場を収めるのが得策である。
加奈はジト目で時雨を見つめると、顔を近付けて指摘する。
「時雨ってさ。無意識の内で気付いていないかもしれないけど、嘘を付く時は必ず瞬きする回数が増えるんだよね」
まさかと思って、時雨は目を見開いて強制的に瞬きするのを押さえる。
すると、加奈は思わず腹を抱えて笑ってしまった。
「ははっ、時雨は相変わらず分かり易い性格だなぁ。そんなの嘘に決まってるでしょ」
「……鎌をかけたのか」
してやられたと時雨は俯いて自身の浅はかさに呆れてしまった。
「人類が皆、時雨のような性格の持ち主なら、私は心理学者になれるかもね」
加奈は得意気になると、改めてスマホを時雨に向けて問い質す。
「さあ、本当のとこはどうなのよ? 真面目な時雨が演劇なんて思い付きで行動するような性格じゃないのは知っているし、品行方正の桐山先輩も同じよ。考えられるとしたら、桐山先輩が発した言葉に答えがあると思うのよね」
スマホを操作すると、加奈は問題の場面を再生する。
『私がこうして転生できたのは時雨……いえ、ロイドのおかげ』
再生は一時停止されると、時雨の耳元で加奈は囁く。
「二人は前世で同じ時を過ごした騎士とお姫様じゃないかしら?」
その言葉に時雨は反論する事なく、頷く事しかできなかった。




