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第345話 クイズ

 しばらくすると、予想はしていたが、パンフレットの配布は難航している。

 子供連れの家族は興味を惹いて立ち止まり、パンフレットを受け取ってくれる割合は多い。

 しかし、中年の団体客やビジネス目的で訪れた泊まり客は素通りしてしまう傾向が強い。

 若い大学生のグループ等は着ぐるみに釣られて近寄ってくれたりはするが、スマホで写真の撮影をした後はパンフレットを受け取らずにそのまま立ち去ってしまうケースが多々あった。


(全然残っているなぁ……)


 全体の三分の一も配り終えていない状況で時雨は少々焦っていた。

 普段、駅前や商業施設で宣伝用の広告等を配っている人を見かけたりしたが、荷物になったり煩わしいので受け取らないで無視していた。

 いざ、配る側になって体験すると、その苦労は十分に伝わった。

 物販店のレジ前で意味深な咳払いをする年配の従業員はこちらをずっと監視している。

 もっと手際良く効率的に配れと急かされている感じだ。

 時雨は気を引き締め直してパンフレットの配布を再開すると、一組の男女のカップルが受付でチェックインを済ませて物珍しそうに着ぐるみの時雨に近付く。


「可愛らしいキャラクターだね。撮影は大丈夫ですか?」


 男は律儀に時雨から撮影の許可を取ろうとすると、時雨は大きく頷いて答えた。

 本当は声に出して返答したかったが、着ぐるみを着ている間は私語厳禁とされていた。

 テレビ等で取り上げられているご当地のゆるキャラも一部を除いてイメージを損なわないために声は出していないし、私語厳禁は致し方ない。

 女も男に手招きされて笑顔で近付いて来ると、記念撮影が始まった。

 男女のカップルは若い外国人のようで、二人共日本語が流暢で上手だ。

 無事に撮り終えると、男は手荷物を持って礼を言う。


「ありがとうございました」


 時雨も声は出せないが、二人に応えるために大きく手を振って見せた。

 そして、そのまま二人は肩を寄せ合いながら、部屋まで移動を始める。

 案の定、パンフレットを渡す暇もなく、その様子に痺れを切らした年配の従業員は時雨を怒鳴りつけて呼び付ける。

 時雨は慌てて振り返ると、この後の展開が想像できるだけに足取りが重い。

 無視する訳にもいかず、軽く溜息を漏らしてしまう。

 時雨は着ぐるみの状態で直立不動に年配の従業員から小言をもらうと、着ぐるみの狭い視界から妙な光景が目に飛び込んで来た。


「問題です。日本の最南端にある島は何でしょうか?」


 タキシードにシルクハットを被った見知らぬ男が年配の従業員の背後にいつの間にかいたのだ。

 年配の従業員もタキシードの男の存在に気付くと、気味悪そうに一瞥する。


「解答時間は五秒です。五、四、三……」


 タキシードの男は構わず不穏なカウントダウンを始める。

 年配の従業員はタキシード男を不審者扱いすると、「警察呼びますよ」と警告をする。

 だが、タキシード男はカウントダウンを止めずに五秒が経過する。


「不正解です。不正解者にはペナルティーを受けてもらいます」


 淡々と喋るタキシード男は年配の従業員の顔に手を添える。

 すると、年配の従業員は泡を吹いてその場で倒れると、今度は時雨に新たな問題を提示する。


「問題です。日本の最西端にある島は何でしょうか?」

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