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第327話 理恵の胸中

 最後に紅葉が呼ばれて全員のインタビューが終了する。


「加奈君の肌は柔らかくてモチモチだねぇ」


 加奈の頬をプニプニさせて肌の触感を確かめながら早速悪戯を始めている。


「うう……」


 浮かない顔をしている加奈は甘んじて女神の洗礼を受けているが、理由はされだけではないようだ。


「理恵にダークエルフだってバレちゃった」


 加奈は憂鬱な声で項垂れる。

 どうやら、インタビューで自身の前世を喋ってしまったようだ。


「そんなに嫌だったら、黙秘すればよかったのに」


「だって黙秘なんてしたら、後できつい尋問コースかもしれないじゃない」


 別に悪い事はしていないのでそんな手荒な真似はしないと思うが、やはり米軍主導のインタビューと言う異質な状況が加奈の妄想を悪い方向へ掻き立てる。


「尋問コースより悪戯コースを選んだ訳か」


 時雨はミールに悪戯される加奈を眺めながら、一人納得する。

 インタビューで使っていた個室の扉が開き、中から理恵が出て来た。

 理恵は時雨達と合流すると、ミールとミュースの顔を見比べる。


「女神のミールさんってどちらですかね?」


「ああ、ミールは私だよ」


「個室に呼ばれていますので、どうぞ向かって下さい」


「私もインタビューかな。ちょっと席を外させてもらうよ」


 軽い口調でミールは加奈の悪戯を中断すると、そのまま個室へと向かう。

 後ろ姿のミールを見送る理恵はてっきりミュースがミールだと思っていた。

 修道服に身を包み、銀髪の長髪を整えているミュースは女神のイメージにぴったりだ。

 一方、ジャージ姿で少々アホ毛が目立つミールは女神のイメージから程遠い。


「おつかれ、私も何か飲もうかしら」


 理恵は時雨達に労いの言葉を送ると、カップに紅茶を注いで一息入れる。

 その様子を時雨達は黙って見ていると、視線を察した理恵が口を開く。


「まあまあ、順序よく説明するからさ」


 カップをテーブルに置いて、理恵は静かに微笑を浮かべる。

 どうしてこの場に理恵がいるのか。

 こちらも正体を明かす形となったのだから、その十分な理由が知りたいところだ。


「私は中学を卒業するまで父の仕事の都合でアメリカにいたの。高校も向こうの学校で過ごす予定だったのだけど、急遽日本でやらなければいけない仕事ができて家族全員で日本へ飛んだわ」


 理恵は思い返しながら話を進めて行くと、どうやら理恵の父親は外資系企業に勤めるアメリカ人で、日本へ旅行に訪れた時、日本人である今の母親と出会って国際結婚をしたようだ。

 子宝に恵まれて理恵が生まれると、住まいはずっとアメリカの方で暮らしていた。

 そんなある時、理恵の父親は会社の上層部から能力に見合った要職を用意したと日本への栄転が決まった。

 そして理恵の家族は日本へ住まいを移すと、理恵は時雨達が通っている女子高へ入学する事になった。幸いにも理恵は小さい頃から母親に日本語も教えてもらっていたので、日常生活に支障が出る事はなかった。

 ここまで聞く限りだと、一般的に知られる帰国子女の生徒だ。


「日本で高校生活が始まると、それまで仕事が忙しい人だった父はあまり家庭について話す人じゃなかったのに、妙に学校生活とか交友関係について訊ねる機会が増えたの。私は小さい頃から父が仕事一筋で家庭を大事にしているのは分かっていたし、不満はなかったけど……家族と話す機会が増えて嬉しかったな」


 理恵はカップの紅茶に映る自身を見つめながら、寂しそうに語る。

 神妙な顔で時雨達は理恵の話に耳を傾けていると、理恵はカップの紅茶を一口飲んで言葉を続ける。


「でも、それは私の勘違いだった。今年の夏休み初日、父はこの施設の責任者であるカフラート博士を連れて自宅へやって来た。珍妙な客人だと思っていたけど、父とカフラート博士に呼ばれて時雨達について、そして父は外資系企業に勤める人間ではなく、軍の関係者だった事を告げたわ。最初は何の冗談かと思っていたけど、父が勤めている外資系企業は身分を偽るために軍が用意した設定だったのが判明したわ」


 時雨達の正体も驚いたが、それ以上に肉親である父親が家族を欺いていた事に理恵はショックだった。

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