第325話 異質なインタビュー②
「では名前をフルネームでお願いします」
カフラートが書類に目を通してペン回しをしながら時雨に訊ねる。
「鏑木時雨です」
何とも奇妙な空間だなと時雨は改めて自分の名前を告げてそう思う。
アルバイトの面接と学校の三者面談を足して割ったような感じと言えばいいのだろうか。
見た目は子供であるカフラートからインタビューされて、キャスティルは足を組みながら、目を瞑って様子を窺っている。
カフラートはお構いなしに次の質問を時雨にぶつける。
「時雨さんは前世の記憶をどの程度保持しているのでしょうか?」
「えっと、名前、家族、出身国について大体の事は憶えています」
「ほう、そこまで鮮明に憶えていますか」
カフラートは感心したように書類にペンを走らせる。
正直な話、前世なんて不確定な事象を真面目に米軍側が聞き入れる事に信じられない。
アメリカは複数の宗教コミュニティが形成され、その中でもキリスト教の信者が多いが、ミール率いる女神達を神として受け入れているのは、よく考えれば凄い事である。
「その顔、何でそんな事を聞くんだと不思議に思われていますね」
「えっ……」
突然、カフラートが時雨の疑念について核心を突くと時雨は思わず驚いて目を見開いてしまう。
そして視線を泳がせると、一連の流れを見ていたキャスティルと理恵は「分かり易い性格だな」と口を揃える。
「ここだけの話ですが、私もつい最近まで前世や転生なんて類の話は興味がありませんでした。科学より宗教寄りの分野ですからね」
カフラートは時雨達に本心を打ち明ける。
実際に異世界転生した時雨でも、周囲の人間に前世や転生は存在すると自信を持って公言するような事はしたくない。
電波女か新興宗教の勧誘と勘違いされてしまうのが関の山だ。
こうして理解を深めているカフラートと向かい合って前世や転生について語るのも、抵抗感はあるのだ。
「興味を示したきっかけは先程も言いましたが、例の映像ですよ。その後は我々も考えを改める事案がありましたからね」
カフラートがキャスティルに視線を移しながら言葉にするが、キャスティルは目を伏せたまま沈黙を維持する。
「まあ、定説が覆されるなんて事はザラですよ。我々は宇宙全体の仕組みも掴んでいなければ、今住んでいる地球も全て解明できている訳ではありません。謎を解くには先入観を捨てて、違う視点から物事を判断するのも大切だと私は思います」
それで科学分野からかけ離れた前世や転生について意欲的なのかと時雨は納得する。
今後、時雨達の前世や転生話が何かの役に立つのなら、それはとても光栄な事だ。
「差し支えがなければ、前世について何でも結構ですので憶えている限りの事をお話し下さい」
「ええ、分かりました」
時雨は自身の前世について黙秘せずに、誇らしげに語り始めた。




