第324話 異質なインタビュー
コンクリートの壁や支柱があったところとは打って変わって、落ち着いた照明とオシャレな調度品に囲まれた空間が時雨達の目に飛び込んで来た。
「適当にお掛け下さい」
カフラートが時雨達に席を勧めると、指を鳴らして部屋全体にクラシックの音楽が流れ始めた。
言われた通り、適当に席へ着くと同時にカフラートは本題へ入る前に挨拶をする。
「この度は貴重なお時間を作って頂き、ありがとうございます。改めまして、私はアメリカ合衆国第五センター方面主任研究員のカフラートと申します」
「その長ったらしい肩書きは聞き覚えがある。あいつと同じものだな」
「ええ、その通りです。以前、貴女が怪我をさせたカーライン博士と私は同程度の権限を持ち合わせています」
「同程度ねぇ……あの男と比べたら、あらゆる面で見劣りする」
「これは手厳しい評価だ。まあ、あの人に比べたら私は並の人間ですよ。むしろ、手傷を負わせた貴女がおかしいレベルだ」
主任研究員の立場であるカフラートは子供ながらにこの施設の責任者である。
その責任者であるカフラートにずけずけと物申すキャスティルは相変わらず機嫌が悪い。
そうしている内に、この施設の研究員らしき人物がトレイで人数分のコーヒーを配ってくれた。
時雨は軽く会釈してコーヒーを口にすると、カフラートは早速本題へ移る。
「今日は皆様に簡単なインタビューをさせて頂きたく、集まってもらいました」
「インタビュー……具体的にどんなものですか?」
時雨は皆を代表して遠慮がちになりながら、インタビューの概要について訊ねた。
インタビューされる経験なんて一度もなかった上に、ここは米軍の施設である。
映画やドラマのような妙な機械装置を取り付けられて、尋問形式に答えるものかもしれない。
そんな時雨の不安を見透かしたカフラートは笑みを浮かべて答えてくれた。
「ははっ、何も怖い事はありませんよ。個別で異世界転生者の皆様について幾つか質問を繰り出すだけですよ。勿論、答えたくない質問に対しては黙秘して下さって結構です」
「個別でだと?」
「ご不満でしたら、立ち会ってもらっても構いませんよ」
「……いいだろう。お言葉に甘えて立ち会わせてもらうぞ」
キャスティルはカフラートをじっと見つめて納得する答えを見出した。
時雨達も回答できる範囲でインタビューに応じるつもりでいたので、話はスムーズに進んだ。
「あの個室に順番でお呼びしますので、名前を呼ばれた方は向かって下さい」
カフラートはすぐ近くに併設されている個室を指差して見せた。
「では最初に鏑木時雨さんから参りましょうか」
「あ……はい、分かりました」
最初のインタビューに選ばれたのは時雨だ。
緊張した声で席を立ち上がり、カフラートはキャスティルと共に個室へ通される。
「私達はゆっくりお茶を楽しんでいるよ。キャスティル、あまり威圧的な態度を取って時雨君やカフラート殿に迷惑を掛けては駄目だよ」
「余計なお世話だ。お前は私の母親かよ」
ぶつぶつ文句を言いながら、キャスティルは鬱陶しそうにミールを一瞥する。
そのやり取りが微笑ましく、少々可笑しくなって笑いそうになってしまう。
「さあ、どうぞお入り下さい」
カフラートが個室の扉を開けて時雨達を通すと、色んな意味で驚かされてしまう。
刑事ドラマ等で見かけるような取調室を想像していたのだが、学校帰りで友達と立ち寄るカラオケ屋と変わらない様相なのだ。
元々、この一画は福利厚生施設とカフラートが説明していたので、このカラオケルームのような個室もその一環なのだろう。
そして、最も驚かされたのは個室に一人先客が待ち受けていたからだ。
「理恵……だよね?」
「当たり前でしょ。幽霊でもなければ、偽者でもないわ」
理恵は時雨に足があるのを確認させて、顔に手を当てながら変装も施していない事をアピールする。
「何でお前がここにいる?」
「キャスティル先生、それはこの人達に呼ばれたからですよ。いや、女神様って呼んだ方がいいのかしら?」
理恵はキャスティルを女神として認識している。
おそらく、カフラート達から大方の説明を受けているのだろう。
時雨とキャスティルは隣同士になってソファーに座らされると、その対面のソファーにカフラートと理恵が座り異質なインタビューが開始されようとしていた。




