第322話 車に揺られて
車にしばらく揺られていると、時雨の口に甘い物が突っ込まれた。
「そんな難しい顔をしなくて大丈夫だよ。昨日のポッキーが余っていたから、目的地に到着するまで昨日のポッキーゲームの続きでもやるかい?」
「それは……結構です。お気持ちだけ頂きます」
時雨の右隣に座っていたミールがポッキーの束を見せると、時雨は突っ込まれたポッキーを食べながらミールの提案を丁重に断った。
「それは残念。まあ、甘い物でも摘みながら少し今回の件で話をしようかな」
ミールがポッキーを一本口に咥えながら、神妙な顔で語り始める。
時雨の左隣で座っていたシェーナもミールの言葉に耳を傾けながら、時雨もシェーナに倣って見せる。
「米軍がキャスティルを監視対象にした理由は君達もご存知の通り、米軍を襲撃したのが始まりだった。それに関してはキャスティルに非があったのは認めているし、降格処分も甘んじて受けた。現在はミュースを筆頭に時雨君達の監視任務に就いているけど、以前米軍側がキャスティルに接触したのは時雨君も知っているだろ?」
「ええ、公園でミュースさんのキッチンカーで一緒だった時にそれらしい人達が現れました」
「そう、その時にキャスティルは米軍側と交渉し、合意が結ばれたのさ。キャスティルと異世界転生した君達の動向を監視するってね」
合意の件は最終的に最高責任者の立場であるミールも納得して話が進み、極端な干渉や接触はしない事を条件に話が纏まったようだ。ただし、キャスティルや異世界転生者に対して怪しい人物の接触が確認された場合は米軍側が精査し確保。必要な場合は尋問も辞さない構えだったようだ。
言われてみれば、今回バイトへ向かう途中の高速道路であおり運転の被害に遭った時や海の家でクレーム客に対して外国人が間に入って対処したのも米軍だった訳だ。
「キャスティルや君達の情報は他国にも流れているから、接触する怪しい人物は裏を取る。我々も君達の安全確保は最重要任務だから、任務に支障が出る場合は排除するよ」
ミールが一連の流れについて語り終えると、さらりと恐ろしい事を言葉にする。
時雨達の危険となりうる障害は相手が誰であろうとも、警告はするが素直に従わなければ神の名の下に排除される訳だ。
「まあ、排除なんて真似は最終手段だ。一線を越える前に監視している米軍側へ引き渡すよ」
無用なトラブルを避けたいのは女神側の本音でもある。
かくして、合意は結ばれて現在に至るが、今回面会を希望したのは異世界転生者達についてさらなる情報が欲しいと強い要望があったからだ。
極端な干渉や接触はしないと約束を交わし、情報交換する場合はキャスティルを通して行う事が取り決められていた。
それを今回はキャスティルを無視してミールを通じて提案された事にキャスティルは憤慨して納得していなかった。
「なるほど、キャスティルさんが怒るのも無理ないですね」
「まあ、キャスティルは少し頭が固いところがあるからねぇ。仮にキャスティルを通じて要望したところで君達の安全確保を理由に却下されていたかもしれないね」
時雨は頷いて答えると、ミールは緊張感のない様子でポッキーの束を口に頬張りながら見解を述べる。
「口は悪いけど、それだけ君達の事を大切に想っているのさ。もう少し笑顔でいてくれたら、だいぶ印象が変わるんだけどねぇ」
ミールが残念そうに呟くと、中間テストの勉強に付き合ってくれたり、あおり運転から時雨達を守ってもらった。
初見で出会った頃はミュースを恫喝した場面が印象的で、女神と言うよりヤクザに近かった。学校の授業中も彼女が教壇に立っていた時も上の空だった時雨に対してチョークを投げてロッカーを貫通させる芸当を披露してくれた。
「私の爪の垢でも飲ませたら、少しは穏やかな女神になるかもしれないね」
「それはどうでしょうかね……」
悪戯心をくすぐる女神の性格が合わさったら、手が付けられないだろうと安易に想像ができてしまう。
時雨は曖昧な返事をして苦笑いを浮かべると、乗用車は停車して目的地へ辿り着いた。




