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第318話 カオスな空間

 よく考えれば、これは只のゲームなんだと時雨は心の中で言い聞かせる。

 それに唇が重なり合う瞬間を見極めて顔を引っ込めればいいのだ。

 時雨は端のポッキーを咥えながら思考を巡らせていると、凛ももう片方の端を咥える。

 温泉に浸かり、シャンプーの良い香りと凛の甘いフェロモンが時雨の好奇心を刺激してしまう。

 前髪を掻き分けてポッキーを食べて行く凛に対して、時雨は見惚れたまま動けない。

 凛はそんな時雨に気付くと、両手を時雨の頬に当てて優しく撫でる。

 緊張しないでと言わんばかりに凛の眼が語っている。

 いつの間にか、凛の瞳を吸い付くように視線を合わせていると、時雨の唇に生暖かい感触が伝わり始める。

 ハッとなって我に返ると、つい先程まで二人を繋ぎ止めていたポッキーはどこにもなく、唇同士が重なり合っていたのだ。


(これは……)


 時雨は凛から離れようとするが、肩をガッチリ掴まれて身動きが取れない。

 尚且つ、時雨の唇を通して凛の舌が入り込んで来る。

 うっとりした瞳の凛は夢中になっていると、二人はキャスティルによって引き離されてしまう。


「それ以上はベッドの上でやるんだな。ったく、あの女神は何を考えているんだか」


 少し夜風に当たって来ると言い残して、キャスティルは襖を開けて別室に籠る。

 おかげで凛から解放されたが、当人は満足していない様子だ。


「もう少しあの状態でいたかったなぁ」


「そんなお戯れを……」


「その割には時雨も少し乗り気で嬉しそうだったじゃない」


 嬉しくないと言えば嘘になるが、素直に嬉しい訳ではない。


「今度は二人っきりの時に、またやろうね」


 凛は時雨の頭を撫でて、次の約束を交わそうとする。

 冗談かと思えたが、半分ぐらい本気のような気がしてしまう。


「そ……それより、他のペアはどうなりましたかね」


 露骨に話題を変えると、時雨は他のペアがどうなったか周囲を見渡す。

 最初に目に飛び込んで来たのはミュースとシェーナだ。

 二人は抱き合いながら、お互い顔を近付けている。

 お盛んな事でとポッキーゲームの醍醐味に嵌まった二人を温かく見守っていると、少々様子が変である事に気付く。

 激しい音を立てながら、控えめなミュースが色気を全開にしてシェーナと唇を交わしていたのだ。

 シェーナは目で助けを求めるようにして時雨に訴えると、ミュースは口から糸を引きながら目がトロンとしている。


「シェーナさんのような若い娘はやっぱりいいわぁ。次は時雨さんを味見してみようかしら」


 聖女のような女神が普段なら絶対言わないような台詞を平然と吐いている。

 標的をシェーナから時雨に変えると、逃げる間もなくミュースに捕まってしまう。


「ミュースさん、落ち着いて下さい!? 一体どうしたんですか」


「どうしたもこうしたもないわよ。ポッキーゲームの延長線を開始しようと思った訳よぉ」


 若干ろれつが回っていないミュースに時雨は嫌な予感がしていた。

 凛はすぐ傍に置いてあった飲みかけの缶チューハイを見つけると、以前ミュースにアパートへ招待された事を思い出した。


「どうやら、アルコールを摂取してしまったようね」


 キャスティルが自前で用意した酒類が、迂闊であった。

 シェーナは突然の女神による猛アタックで再起不能になり、気絶してしまった。

 凛は時雨からミュースを引き離そうとするが、まるでビクともしない。


「じゃあ、いただきます」


 食前の挨拶を交わすような文言で躊躇いもなく時雨の唇を奪いに行く。

 凛は暴走したミュースを止められないか他の人に援軍を求めようとするが、ミュース同様に他のペア達も夢見心地でいたのだ。


「私の魔法で、皆を幸せでハイな気分にしちゃいましたよ」


 ミュースが自慢気になりながら種を明かす。

 客室は一変し、カオスな空間へと変貌していった。

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