第317話 ポッキーゲーム②
お互い面と向かい合って座ると、なかなか緊張が解れずにいる。
相手は前世で護衛対象だったお姫様で、今では女子生徒達が憧れる先輩だ。
「ポッキーゲームなんて初めてだけど、その相手が女子の時雨とは運命を感じちゃうわ」
「そんな……大げさですよ」
時雨は運命と言う言葉に照れながら、凛を直視できずにいる。
時雨としては元々前世が男だったので、羞恥心はあるが女子とポッキーゲームをするのに嫌悪感はない。
「凛先輩はその……私なんかより素敵な殿方とこういうゲームをしたかったのではありませんか?」
「自分を卑下するのは時雨の悪い癖よ。私は時雨が大好きだし、女同士でも全然構わないわ」
凛は時雨の額に顔を当てながら、時雨の気持ちを解していく。
長年の付き合いで、彼女の言葉に嘘はないとはっきり伝わるのが分かる。
「時雨がお望みなら、今晩お互いの愛を確かめ合ってもいいのよ?」
「か……からかわないで下さい!?」
凛の浴衣がはだけて胸元が見えそうになると、小声で甘い誘惑が飛び交う。
そんな二人のやり取りを遠目で恨めしそうに香が見つめている。
「僕は時雨ちゃんとやりたかったなぁ」
「時雨のようなお子ちゃまより、大人のダークエルフである私が楽しませてあげるわよ」
「そんな事言って、ゲーム中に僕の胸とか触らないでよ」
「えっ、駄目なの?」
「駄目!」
香は加奈とペアになり、いつもの様子で賑やかだ。
その横ではシェーナとミュースのペアが出来上がっていて、こちらも時雨同様にシェーナが緊張している。
少々離れたところで、紅葉とキャスティルが沈黙したまま向かい合ってポッキーゲームを淡々と始めている。
ポッキーが二人の口に運ばれながら、必然的に唇が重なる。
(これは……)
傍から見れば、構図的に学校の先生と風紀委員の生徒。
普段なら、絶対にお目にかかれない状況だ。
「生徒と先生が垣間見る禁断の果実。昔、似たような設定の同人誌を読んだのを思い出したわ」
柚子は昔を懐かしむように紅葉とキャスティルをうっとりした瞳で覗き込む。
その場にいる誰もが息を呑んで二人を見守っていると、スノーが青筋を立てて激怒する。
「なっ! 姉貴の神聖な唇にメス豚の唇を合わせるなんて言語道断。私が成敗して……」
「こらこら、何をするつもりだい」
自慢の鎌を手に取ろうとするスノーの腕をミールは掴んで阻止する。
ポッキーゲームのルールを詳しく知らなかったのもあるのだろうが、尊敬するキャスティルを他の女に取られたくないのだろう。
「ミール様! その手を放して下さい。キャスティルの姉貴とは長い付き合いですが、あんな風に口付けを交わした事はないんです。それを当たり前のように私に見せつけながら……」
「君がそこまでキャスティルにゾッコンだったとは知らなかったよ。まあ、命令を出したのは私だし、今回は特別の処置を施してあげるよ」
ミールがスノーを宥めると、スノーを一旦時雨達から引き離して二人は洗面所へ向かう。
紅葉とキャスティルに続いて、時雨も唾を飲み込んでポッキーを取り出しながら命令を遂行しようとする。




