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第315話 王様の意図

 ミールもペアであるシェーナと向かい合って命令を遂行しようとする。


「命令の内容自体は大した事のないように見えるけど、実はそうでもないんだよ」


「ポテチを食べさせるだけですよ」


「シェーナ君は甘いな。それでは王様の意に沿って実演して見せようか」


「はぁ……」


 気のない返事でシェーナはポテチを摘んでミールの口へ運ぼうとする。

 ポテチはパリッと音を立ててミールの口に入り、別段変わったところはない。

 王様の命令が完遂できたと安心したシェーナはポテチを摘んだ指を下げようとした時だ。


「おっと、指はそのままにしておいて」


「えっ……ええ、分かりました」


 シェーナは引き止められて若干困惑気味になる。

 まじまじと指を眺めるミールに段々気恥ずかしい気持ちが芽生える。


「シェーナ君は繊細な指をしているね」


「そんな事はありませんよ。剣の稽古でタコができたりしていますし、ミールさんの……いえ創造神で在られるミール様の神聖な指に比べれば、私の指は大したことありません」


 シェーナはスノーの視線を気にしながら、敬称を添えて接する。

 初めてここへやって来た時はミールに不敬な態度を示した時雨をメス豚呼ばわりするぐらいだ。

 ここは面倒事に巻き込まれないためにも、最善を尽くして対応に当たる。


「ああ、なるほどね。そんなミール様なんて背中が痒くなるような台詞は止めておくれよ。私とシェーナ君との仲じゃないか」


 ミールは何かを察したようで、シェーナの腕を掴んだまま上目遣いで様子を窺う。

 普段は悪戯好きな女神である彼女だが、口を閉じて凝視する姿は気品のある女神として目に映る。

 そして、そのまま顔を近付けて髪を掻き分ける仕草をしながらシェーナの指をゆっくり舌で優しく舐める。


(これが目的か……)


 第三者視点で時雨がミールとシェーナのやり取りを見ていると、王様である加奈の意図が読めた。

 ポテチを触って手に付いた塩も綺麗に食そうとする算段で、おそらく加奈と当たっていたら今のような事をやっていただろう。

 慌てて手を引っ込めるシェーナは動揺を隠し切れずに顔を赤く染めながら注意を促す。


「女神様ともあろう御方が、はしたない真似は止めて下さい!」


「えっー、いいじゃん。だって私とシェーナ君との仲じゃないか。時雨君も後学のために試しにやるかい?」


 悪びれた様子もなく、ミールはシェーナと肩を組んで仲の良さを存分にアピールする。

 今度は時雨も巻き込もうと画策するミールに時雨は「間に合ってます」と首を横に振って断りを入れた。

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