第313話 スノー、アウト
時雨達は輪になって中央のテーブル席に置かれている箱を目にする。
「少しルールを追加していいかな? 怪我をさせたり、生命の危機に関わるような命令や犯罪になりそうな命令は却下だ」
ミールの申し出に参加者達は頷いて同意する。
普通に王様ゲームをやる分には追加のルールに触れるような真似はないと思うが、参加者に女神達がいる。
女神の基準で考える命令が人間にとって危険である場合があるかもしれない。
そういう意味ではスノーが一番危ういなとこの場にいる誰もが直感する。
クジはミールを起点に時計回りで引く事になり、緊張しながら箱に手を入れて行く。
全員、クジを引き終えたのを確認すると、門倉が全員を見渡しながら言葉にする。
「では、王様を引いた人は挙手をお願いします」
クジの中身を見ると、時雨のクジには三番と書かれている。
(外れか……)
隣にいる香や加奈も渋い顔になり、どうやら王様ではなさそうだ。
そして、一人の人物が挙手をして名乗り出た。
「よし! 私がキングだ」
スノーだ。
その瞬間、ざわめきが広がると、スノーはお構いなしにテーブル席の上に立って王様気分で命令を下そうとする。
「初回だからな。まずは軽めな命令にして場を盛り上げようじゃないか。一番は魔神将を一匹片付ける!」
スノーは高らかな声で命令を下すと、シェーナは小さく手を挙げる。
どうやら、一番はシェーナだったようだ。
有無を言わさず、スノーはシェーナに自慢の武器である鎌を手渡そうとすると、本気で命令を実行させようとする雰囲気だ。
「特別にこいつを貸してやるよ。さあ、さっさと行って来い」
「魔神将ですか……」
困惑した表情でシェーナが周りに助けを求めようとしている。
やはり恐れていた事態に突入して、このままでは『行って来い』が『逝って来い』になってしまう。
「ボサっとしてないで、さっさと狩りに行けよ! 次のゲームに進めないだろ」
スノーはシェーナを急かすように背中を押す。
すると、いつの間にかスノーの背後にミールが彼女の背中を軽く叩く。
「スノー、アウト」
突然のアウト宣言に今度はスノーが困惑してしまう。
「君はルール追加を聞いていなかったのかな?」
「き……聞いていましたよ!? 魔神将程度なら大丈夫ですよ」
必死に弁解するスノーだが、ミールは深い溜息をついて片手から巨大なハリセンを召喚する。
スノーにとって魔神将は人間で言うところのスライムを狩るぐらいの感覚なのだろう。
そのままミールはハリセンを握ると、スノーのお尻目掛けてハリセンの一撃が炸裂する。
「いてぇぇぇ!」
ハリセンの叩く音が客室の広間に鳴り響くと、スノーは悶絶しながら、のた打ち回る。
一見大げさなように見えるが、キャスティルは分かり易いように補足を加える。
「あの一撃はかなり重いぞ。普通の魔神なら一発で昇天だ」
「そうなんですね……」
「さすがに人間相手であんな出力は出さんだろうが、全員あんな風になりたくなかったらマシな命令を下せよ」
スノーを反面教師として、時雨達は「お尻が割れる!」と涙目で絶叫するスノーに絶対ああなりたくはないなと細心の注意を払おうと心に誓った。




