第312話 王様ゲーム
「はいはい、皆さん注目して下さい」
門倉が手拍子して時雨達の注目を集めると、大きな箱を一つ取り出してこれから行われるイベントについて説明を始めようとした。
「今から、王様ゲームを始めようかと思います。ルールは簡単、箱に入っている紙を一枚引いて王様と書かれた紙を引いた人は箱から引いた番号の人を指名して命令を下せます」
王様ゲームと聞いて女性陣達の反応は様々に分かれる。
加奈と香は面白そうと子供のように目を輝かせているのに対して、凛は時雨をじっと見据えている。紅葉はこの手のゲームは初めてのようで、少々緊張気味である。
「去年は私とバイトで呼んだモデルの子達で結構盛り上がったのよ。今年は果たしてどんな命令が飛び交うか楽しみだわ」
柚子は時雨の隣で経験談を語ると、どうやら王様ゲームは好評だったようだ。
これなら肝試しのように凛も気絶する事はないだろうし、純粋にゲームを楽しめるだろう。
ルールの説明を終えたところで、キャスティルがその場から立ち去ろうとする。
「えっと、どちらへ行かれるのですか?」
「喫煙室で適当に時間を潰している」
慌てて門倉がキャスティルを引き止めると、キャスティルは素っ気ない態度である。
どうやら、王様ゲームがお気に召さなかったようで、付き合いきれんとばかりにスノーも連れて行こうとする。
客室の出入口の扉を開けると同時に、それを阻もうとする人物が客室を訪れた。
「やあ、皆元気にしてたかい?」
ジャージ姿のミールだ。
キャスティルは思わず会いたくない人物と再会を果たして露骨な舌打ちをすると、その後ろでスノーは礼儀正しく畏まる。
不思議そうにミールは腕を組みながら、ミールはさらに言葉を続ける。
「どうやら、楽しいイベントに間に合ったようだね。キャスティルとスノーはそんなところに突っ立ってどうしたんだい?」
「こいつと煙草だ。お前こそ、用事は済んだのか?」
「ああ、解決したよ。それより、ゲームに参加しないで尻尾を巻いて戦線離脱とは運命の女神様ともあろう御方がする筈ないよね?」
ミールはキャスティルを煽るような文言で扇動すると、その手には乗らんと言わんばかりにキャスティルは客室を去ろうとする。
すると、ミールはキャスティルのやる気を起こさせるためにもう一押しする。
「よく考えてごらん? キャスティルにとってこれはチャンスでもあるよ。王様に選ばれたら合法的に私へ命令を下せる立場になれるからねぇ」
そこまで言うと、ミールはそのまま客室へ入って時雨達と王様ゲームに参加する気満々だ。
「キャスティルの姉貴、ミール様の誘いを断るのは如何なものかと……」
スノーが遠慮がちに進言すると、キャスティルは客室の出入口の扉を乱暴に閉めて引き返して来た。
鋭い目付きでミールを睨むと、キャスティルは王様ゲームの参加を決め込んだ。
「ふふっ、役者が揃ったようだね。さあ、楽しい王様ゲームの始まりだ」
ミールは門倉に合図を送ると、箱をテーブル席に置いて各々思考を巡らせながら王様ゲームの幕を開けた。




