第303話 店の裏側で
理恵達が昼食を終えると、会計に時雨が担当する。
「ごちそうさま。いやぁ、まさか学校のクラスメイトと先生の他に加奈の親戚の人と会えるなんて思っていなかったよ」
「ははっ……私もビックリだよ」
時雨は苦笑いを浮かべて、お釣りを理恵に手渡す。
理恵達は毎年、夏休みにはこの近くにある親戚の叔父さんの家に泊まりに来るらしい。
海で遊ぶついでに素敵な彼氏をゲットできるチャンスでもあるらしく、その辺は加奈と同様に抜け目ないなと時雨は思う。
「それよりさ。ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
「改まってどうしたの?」
「そのTシャツを脱いで水着姿を披露して欲しいなぁ」
「ええっ……恥ずかしいよ」
「ほんの少しだけでいいから、時雨の水着姿が見たい! それに私の水着姿は見たのに、これは不公平だと思うのよ」
理恵が手を合わせて時雨にお願いのポーズをする。
時雨としてはこの場で水着姿になるのは恥ずかしいので断りたいところだが、理恵も必死にしがみ付いて諦めようとしない。
少々強引な言い分だが、たしかにこちらは理恵の水着姿を見ているので押しの弱い時雨は断り切れないでいる。
煮え切らない思いの時雨に理恵はさらに畳み掛ける。
「健一も時雨のナイスバディな水着姿を見たいわよね?」
「えっ!? 僕はその……」
弟を出汁に使うのは反則だ。
突然の事で理恵の弟も困惑した表情で言葉を失ってしまう。
「分かったよ。じゃあ、店の裏側で少しだけだよ」
「やった!」
理恵が指を鳴らして喜ぶと、時雨は折れて早速店の裏側へ移動する。
人気のない日陰の場所で時雨はゆっくりTシャツを脱ぐと、理恵達に水着姿を披露する。
「わぁ! 可愛いじゃん。こうして見ると、時雨って意外と胸も大きい。私が男だったらナンパしてるわよ」
「はい、お終い。私は仕事に戻るからね」
時雨は素早くTシャツを着直すと、仕事場へ戻ろうとする。
ナンパされても困るが、現在海の家で働いている女子達はモデル顔負けのレベルなので自分がナンパされる心配はないだろうと思っている。
そんな時雨の心を読んだのか、理恵は時雨の背中に胸を当てながら抱き付きついて言葉にする。
「時雨の事だからお世辞だと思ってるでしょ? 私は結構マジだからね。何なら、香や先輩達と内緒で私達付き合ってもいいよ」
「そんな冗談は加奈だけで十分だよ」
「あっ、加奈もそうだね。時雨は鈍感だから気付いていないと思うけど、加奈もマジで時雨狙っているよ。香、加奈、凛先輩、紅葉先輩、そして私の五股コースか」
女同士で五股コースとは時雨も罪な女だねと凛は締め括ると、時雨は理恵を振り払って顔を赤く染めながら立ち去ろうとする。
理恵達も満足したようで、最後に理恵は手を振って見送る。
「仕事が終わったら後で遊びに行くよ。連絡頂戴ね」
時雨は小さく頷いて了承する。
理恵の弟は積極的になって時雨に告白する姉をドキドキしながら見守っていた。
理恵は弟の手を引いて引き揚げようとした時、ある事が脳裏を過ぎった。
「いや、待てよ。この流れだと時雨はあのキャスティル先生ともアリなのか? それだと六股のハーレムランドね」
教師と生徒の禁断の関係に理恵は妄想を膨らませると、時雨の知らないところで大きな勘違いをされているのであった。




