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第301話 やっちまった

 スノーの活躍が話題となり、海の家はさらに盛況となった。

 夏の暑い日差しで店内に扇風機が回っているとはいえ、時雨達は厨房を何往復もしている内に体力を消耗していた。

 とくに調理班は火を使っているのでミュースとシェーナは首元に下げているタオルで汗を拭って悪戦苦闘を繰り広げている。


「いらっしゃいませ」


 席が一つ空いたのを確認すると、時雨は順番に並んでいる客を店内に案内しようとしたが、ここで思わぬ人物と再会を果たした。


「あれ? 嘘、時雨じゃないの」


 驚いた様子で時雨の名前を呼ぶと、そこにいたのは時雨と同級生の理恵だ。


「理恵! 何でここに?」


「それはこっちの台詞よ」


 素っ頓狂な声で時雨も驚いてしまうと、その様子に理恵は可笑しそうに笑ってしまう。

 よく見ると、理恵の他にもう一人連れがいるのに気付いた。

 年格好は小学校の高学年ぐらいの少年で、理恵の背中に恥ずかしそうにして隠れている。

 とりあえず、立ち話もあれなので客席へ案内すると厨房の奥から出て来た香が理恵の存在に気付いた。


「理恵! えっ、本物だよね?」


「正真正銘の本物よ。やっぱり香もセットでいたのか。夫婦揃ってアルバイトとは精が出ますなぁ」


 理恵が熱い視線を飛ばすと、時雨と香は並んで照れてしまう。

 すぐ目の前に凛と紅葉が通り掛かると、理恵はさらに驚いてしまう。


「凛先輩と紅葉先輩もいるじゃん! 時雨……あんた三股公認で連れ込んだの?」


「三股って、変な誤解を生むような事言わないでよ!?」


「ふふっ、冗談よ。でも、ムキになる時雨はからかい甲斐があって可愛いわ」


 悪戯っぽく笑う理恵は時雨の頭を撫でて見せる。


(学校で確実に噂が広まるだろうなぁ)


 夏休み明けの学校が今から憂鬱な気分になる時雨を他所に理恵は連れの子とメニュー表を眺め始める。


「あっ、その子が例の弟君だよね」


 香が連れの子について訊ねる。


 たしか理恵は彼氏にするなら年下がいいと豪語していたが、どうやら時雨の想像しているのとは違って杞憂だった。


「うん、そうだよ。ほら、このお姉ちゃん夫婦にご挨拶して」


 お姉ちゃん夫婦と言うパワーワードにツッコミを入れたかったが、理恵の弟は時雨と香を前にして俯いたままになってしまう。


「私は鏑木時雨。よろしくね」


 時雨は中腰になって挨拶を交わすと、香もそれに倣って挨拶を交わす。

 奥手な性格と年頃の少年と言うのも加味して、理恵の弟は顔を赤く染めて小さく頷いて答えて見せた。


「弟君、可愛いね。まるで時雨ちゃんみたいな反応だよ」


「あー、それ何となく分かるわ。私は大雑把な性格だけど、弟はどっちかと言うと時雨にタイプが似ているかもね」


 香と理恵で談笑が盛り上がると、時雨は苦笑いを浮かべてこの場は香に任せる事にした。


(やれやれ……)


 時雨が厨房へ引き返し、料理の配膳をしようとした時だった。

 加奈とすれ違って、香と談笑している理恵の存在に加奈が気付いてしまったのだ。


「あっ、理恵じゃん!」


 加奈は迷いなく理恵に学校で触れ合うような感覚で話し掛ける。


「……えっと、どちら様ですか?」


 理恵は困惑した表情でダークエルフ姿の加奈を見上げる。

 数秒遅れて加奈は事態の急変に気付くと、やっちまったと言わんばかりに後の祭りだった。

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