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第3話 前世の約束

 目の前にいる桐山凛が前世の護衛対象であったシェラートである事に時雨は呆然としてしまった。


「まあ、普通は信じられないでしょうね。王宮に飾られていた花瓶を誤って割ってしまったり、道端にいた猫を拾ってこっそり庭先で飼ったりしていた事も、ロイドなら知っているでしょう?」


 たしかに前世でシェラートは花瓶を割ってしまって破片を魔法でつなぎとめる応急処置や庭先で猫の世話を二人で内緒にしていた事はあった。

 世話の掛かるお姫様だなと思っていたが、長く護衛に付き添っていく内に彼女の優しい気持ちに何時(いつ)しか惹かれていった。


「ええ、覚えています。あの時は花瓶が割られた事を国王に見抜かれて、こっぴどく叱られましたね」

「そうだった。その後、監督不行き届きって事で怒られなくてもよかったあなたも、父に絞られたわね」


 たしかに国王に叱責されたが、花瓶を割った事実より、その破片で姫に怪我でもさせたらどうするんだと言う事を目の前にいる凛は知らない。

 そんな話をしていると、店員が注文した品々をテーブルに並べていくと良い匂いが立ち込めていた。


「さあ、いただきましょうか」


 凛は唐揚げを一つ摘むと、マルゲリータピザを切り分けていく。

 体の小さい時雨にはポテトフライを摘むぐらいで丁度いい。

 テーブルに並べられた品々を美味しそうに食べる凛に、体重や健康管理は大丈夫だろうかと心配になった。


「あの、シェラート様」

「凛でいいわよ。お互い前世の名前で呼び合って学校の生徒達に聞かれたら色々と面倒でしょう? だから私も時雨と呼ばせてもらうわ」


 それは一理あるなと時雨は咳払いすると、改めて凛に問い質す。


「凛先輩、食事はいつもバランス良く食べていますか? 前世は好き嫌いが多かったので、特にピーマンやセロリとかは食べられるようになっているか心配です」

「ええ……食べられるわよ」


 凛はシーザーサラダに手を付けながら、時雨と視線を逸らして歯切れが悪くなる。


(これは駄目だな)


 転生して姿形が変わっても、性格や趣向までは変わらない事を時雨はよく理解している。

 時雨は深い溜息を付くと、凛に説教を始める。


「本当は前世のように凛先輩の傍にいたいですが、学校や家族がいるのでそれも叶いません。せめて好き嫌いな食べ物ぐらいは克服して下さい」

「はぁ……相変わらずの小言ね。じゃあ、こうしましょう。前世のように付き添いたいなら、付き合っちゃおうよ」

「いやいや、ちょっと待って下さい。どうしてそんな展開になるんですか!?」


 説教していた筈なのに、凛の滅茶苦茶な申し入れに時雨はたじろいでしまう。

 憧れの先輩であり、一国の姫君だった凛は平凡な女子高生であり、一国の騎士(ナイト)だった時雨に意地悪な笑みを浮かべた。


「だって、崖から馬車が転落していく中で身を挺して私を護ろうとした時、時雨はこう言ったのよ。『シェラート様はどんな事をしても必ず私が護る!』ってね。でも、私はあの転落をきっかけに死亡して桐山凛に転生した。あの約束をまだ果たす覚悟があるなら、付き合うぐらい問題ない筈よ」

「あの時と違って、私は女性で付き合うとかは……」

「問題ないわよ。可愛いらしい騎士(ナイト)様」


 当時の事を思い出そうとすると、姫君の安全を第一に考えて動いていたので、よく覚えていない。

 咄嗟の出来事だったので、安心させるために放った言葉だったかもしれない。

 断れない性格の持ち主だと理解している凛は回答を待っていると、時雨はうなだれて折れる形で承諾する。


「分かりました。私も元々は男ですので約束はできる限り守ります。付き合うと言っても、あくまで先輩後輩の間柄ですからね!」

「ふふっ……うぶなところも相変わらずね」


 時雨は男気を見せて意気込むと、顔を赤くしてしまう。

 二人の付き合いが成立すると、記念に凛は鞄からスマホを取り出して時雨と並んで自撮りする。

 そこに映し出されているのは満面の笑顔でいる凛と表情が硬くなっている時雨があった。

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