第293話 よいではないか
布団の上に沈む時雨はあらゆる箇所を撫でられてぐったりしていた。
(まさか本当に全身を撫でられるとは……)
今まで味わった事のない感覚だったので、為す術もなくミールのおもちゃにされた時雨だった。
「もう一回やる?」
「私が悪かったので、勘弁して下さい……」
ミールは両手をいやらしい手付きで再挑戦しようとしたので、時雨は息を切らせながら丁寧に断る。
物足りない感じでミールはその両手をミュースに向けると、何かを察したミュースは壁際まで後退る。
「おやおや、どうしたんだい?」
「その……ミール様、ひらに、ひらにご容赦を!」
「まあ、よいではないか」
「お止め下さい。そんなごむたいは……」
「ふふっ、よいではないかよいではないか」
時代劇の帯回しみたいなやり取りが展開される。
傍から見たら、美女が美女を襲っている図で、もっと言えば、上司が部下にハラスメントしている現場だ。
為す術もなくもミュースもミールの毒牙にやられてしまうと、ミュースも布団の上で時雨と同様にぐったりしてしまう。
本当は止めに入りたかったが、また揉み解されて再起不能になるのがオチだ。
悲しいかな、ミールに撫でられているミュースの姿にドキドキしながら眺めているしかできなかった事に少量の罪悪感もあった。
「肩とか揉み解したけど、結構疲れが溜まっているね。まあ、キャスティルと一緒の現場は色々と苦労する場面があると思うから、無理はしちゃ駄目だよ」
ミールはそっとミュースの肩に手を添えると、労いの言葉を掛ける。
思わず身体をビクッとさせてしまうミュースをミールは可笑しそうに笑って解放する。
そして丁度タイミング良く露天風呂へ向かった香や加奈達が身体を温めて戻って来た。
「良い湯加減だったねぇ」
「まったくもう……加奈は僕の胸とか触り過ぎだよ」
加奈は露天風呂に満足気味で、香は加奈の過剰なスキンシップでご機嫌斜めだ。
柚子と紅葉も火照った顔を覗かせている。
シェーナに至っては終始、女性陣達に囲まれて露天風呂で天国へ昇天しそうな勢いだったらしい。
新たなおもちゃを見つけたミールは疾風の如く飛び掛かり、今度は加奈を標的にする。
「えっ?」
不意打ちとはいえ、ダークエルフは俊敏な動きを得意とする種族だ。
それでもミールの動きを捉える事はできずに、壁際まで追いやって加奈を撫で始める。
「ふむ、良い顔するねぇ」
「そこは……感度が凄くてだめぇぇ!」
加奈の長耳を遠慮なく撫でると、誤解を招く台詞が部屋中に響き渡る。
これに驚いた周囲の客室に寝泊まりしていた者はオーナーの門倉へ苦情が入り、門倉は異変があった時雨達の客室へ出向く事態になった。
そして、喫煙室からストレス発散させてキャスティルが戻って来ると、この混沌とした状況に更なるストレスが付加した。




