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第29話 二人の料理

 夕食の献立を決めて、二人は食料品売り場で必要な食材を選んでいく。

 凛は食材以外にお菓子をカートに乗せているカゴに入れて、普段の生活について訊ねる。


「時雨は自炊を毎日しているのかしら?」

「いえ、母がいない時だけですね。先輩に偉そうな事を言いましたが、私も自炊は簡単な料理ぐらいしかできないので、あまり期待はしないで下さいね」


 最近はスマホで料理のレシピアプリがあったりするので、冷蔵庫に残っている食材等で手軽に作れたりできるのは有難いと時雨は思う。

 時雨が使っているレシピアプリを凛にも教えて、今回作る肉じゃがも様々なレシピで紹介されている。

 時雨の背中を見ながら、凛は思わず微笑む。


「時雨は将来、家庭的で良いお母さんになれるわよ」

「お母さんですか……ちょっと複雑な心境ですね」


 本業が騎士だっただけに、時雨は苦笑いを浮かべる。

 香にも似たような事を言われたが、元々女性である凛や香の方が相応しい。

 最後に五kgの米をカートに詰め込むと、レジで精算を済ませる。


「ここは私が支払うわ。そのかわり、美味しい料理を二人で作りましょう」


 レジ袋に食材を移しながら、凛は目を輝かせて言うと、嬉しそうにする。

 二人は凛の部屋に戻ると、早速買い込んだ食材を使って調理に取り掛かる。

 刃物の取り扱いは前世から慣れている時雨だが、凛は覚束ない手付きで包丁を握って野菜を切ろうとする。


「先輩、包丁は人差し指と親指の間に柄がくるように持ってみて下さい」

「こうかしら」

「そうです。その状態で握れば、野菜等の食材は楽に切る事ができますよ」


 時雨は凛に包丁の持ち方を教えると、凛は実践して人参を切ってみる。

 元々、呑み込みが早い凛は上手に野菜を捌いていく。


「先輩、凄いですよ。後はジャガイモの皮を剥きたいのですが、やってみますか?」

「ありがとう。時雨の指導が的確だから、料理は面白いわ。皮の剥き方も教えてくれるかしら」


 時雨は手本を見せながら、ピーラーでジャガイモの皮を剥くと、凛も後に続いて実践する。

 野菜の下準備が整うと、後は時雨が鍋に火を入れて先程切った野菜と調味料で味付けをしていく。

 その横で、凛は感慨深い表情で背後から時雨を抱き締める。


「わっ! 先輩、鍋に火を入れているんで、急に背後から抱き付かれたらびっくりしますよ」

「こうして、あなたと二人っきりの空間で料理ができるなんて夢のよう……」


 たしかに凛の言う通り、誰の目にも止まらず二人っきりでかつての主人と食事をするのは初めてだ。

 煮えている鍋の火を止めると、時雨は菜箸を置いて凛に耳を傾ける。


「夢なら、このまま覚めないで欲しいな」

「夢じゃありませんよ。私でよろしければ、毎日とはいきませんが、都合が良い日には料理を作りにいきますよ」

「嬉しい……」


 時雨の言葉に、凛の瞳から涙がこぼれる。

 両親は海外に赴任中で、学校以外はいつも一人ぼっちの食卓だった。

 時雨もたまに一人で食事をする機会はあったが、話す相手がいないのは味気ないものだ。


「さあ、料理も出来上がりましたし、皿に盛り付けていきますよ」


 時雨は凛の頭を優しく撫でると、二人は食卓に料理を並べていく。

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