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第287話 違和感

 それから、時計回りで各部屋を覗いて回ったが、別段変わった様子もなかった。

 車内に待機している柚子に報告を済ませると、薄暗い廊下を引き返しながら、集合場所のエントランスへ向かう途中に正面から何か崩れるような音がした。

 思わず音に驚いた時雨は一瞬身構えてしまうと同時に紅葉が時雨を庇うように身を挺して守ってくれた。

 その勢いで紅葉の胸が時雨の顔に当たると、時雨は連鎖的に驚きを隠せないでいた。


「強風が入り込んで、絵画の額縁が落ちたんだろう」


 キャスティルが冷静に分析すると、たしかに道中割れた窓ガラスから外の風が施設内に入り込んでいたのを覚えている。

 その近くに絵画が飾られていたのも印象的で、キャスティルの言う通り強風に煽られた絵画が無惨な姿で床に落ちていた。

 とりあえず、音の正体が分かったので冷静さを取り戻す時雨は紅葉と少し距離を取って礼を言う。


「私を守ってくれて、ありがとうございます」


「時雨の言葉を借りれば、私も騎士として当然の事をしたまでさ。顔が少し赤いが具合でも悪いのか?」


「別に……これはそんなんじゃありませんので大丈夫です!」


「そうか。それならばいいのだが、昔から時雨は我慢強い性格の持ち主だから、具合が悪くなったら我慢しないで頼ってくれていいからな」


 紅葉は心配そうに時雨の頭を撫でる。

 香や加奈ならそれ以上の要求をしてくるのが目に見えて想像できたので少し物足りなさはある。

 でも、これはこれで悪い気はしない。


「それでしたら、手を繋いでもらえませんか?」


「ああ、いいぞ」


 時雨は紅葉と手を繋ぐと、これぐらい甘えたって罰は当たらないだろう。

 彼女の温かい手の温もりに包まれながら、キャスティルは見せつけられる形で前方に注意を向ける。


「散らばったガラスの破片に気を付けろよ」


 足元に注意しながら、薄暗い廊下を渡り切る間は永遠にこの時間が流れていればいいのにと時雨は秘かに思う。

 束の間のひと時を過ごすと、集合場所のエントランスまで無事戻ると、二階と三階の探索ペアは既に探索を終えて集まっていた。


「やあ、肝試しは存分に楽しんでもらえたかな?」


 ミールが開口一番に訊ねると、時雨と紅葉は曖昧な返事をしながらも頷いて答える。

 そして、香が時雨に抱き付くと肝試しで起こった愚痴をこぼす。


「時雨ちゃん、聞いてよ。加奈ったら、暗闇の場所に連れ込んでワザと驚かせようとしたんだよ」


「ちょっとした悪戯心よ。でも、驚いた顔の香は可愛らしくて写真に収めちゃったから、後で時雨と鑑賞会を開こうかねぇ」


「嘘、写真まで撮ってたの!? そんなの恥ずかしいから、すぐ消してよ」


 二階探索ペアの香と加奈も、どうやら怪我もなく無事でよかった。


「ミュースさんもお疲れ様でした。あの二人、騒がしくて大変だったでしょう?」


「いえいえ、楽しく回れましたよ。時雨さんこそ、キャスティルと一緒で苦労はされませんでしたか?」


「私達を危険から守ってくれたので色々と助かりました」


 時雨はミュースに労いの言葉を送ると、どうやら彼女も十分に肝試しのイベントを堪能したようだ。

 三階ペアはシェーナ一人でミールが付き添っていたが、何やらシェーナの顔色はあまりよろしくない。


「シェーナ、気分でも悪いのかい?」


「ああ……別に平気だよ。ちょっと探索に疲れただけだから、気にしないでくれ」


 気まぐれな性格のミールと二人っきりで、上司に当たる女神でもあるのだから色々と気苦労はあったのだろうと時雨は察する。


「じゃあ、肝試しのイベントはこれにて終了だ。キャスティルとミュースは業務連絡があるからここで待機。シェーナ君は皆を連れて車で待機していてくれ」


「分かりました」


 ミールが肝試しのイベント終了を宣言すると、シェーナは時雨達とエントランスを抜けて外の車へ移動する。

 そんな中、加奈は車に乗り込みながら腑に落ちない点があった。


「ちょっと変なのよね」


「加奈が変なのは知ってるよ」


「いや、そういう事じゃなくて! あの廃病院、ちょっと変だったって意味よ」


 時雨にツッコミを入れて、加奈は廃病院のおかしな点について言及する。

 違和感を感じたのは加奈が二階を探索していた時、階下から嫌な気配を感じ取ったそうだ。

 一応、監視役のミュースにその事を報告したが、彼女は気のせいですよと答えただけだった。

 その内、嫌な気配も収まったので二階探索を終えて一階の集合場所へ集まって皆の無事を確認した加奈は気のせいだったかと思うようになったが、集まった女神達の表情を一瞥した加奈は何か隠し事をしているような雰囲気を感じ取った。


「そういえば、一階の手術室でキャスティルさんが一人入ったまま、しばらく出て来なかったね。私と紅葉先輩は直接見た訳じゃないけど多分、悪霊か何かを祓っていたと思うから、嫌な気配はそれじゃない?」


「うーん、そうなのかな」


 ダークエルフ姿の加奈は人間と比べて気配を探知し易い種族であり、おそらくキャスティルが祓った悪霊に反応したのだろう。


「あとは写真を……」


 時雨は思わずキャスティルが落とした写真について口を滑らせてしまった。

 写真については忘れろと念押しされていたので途中になって口を閉じると、加奈が写真ついに喰い付いた。


「写真って何よ? もしかして、時雨も私と同じく驚いた紅葉先輩の顔を撮ったりしたの?」


「違うよ。キャスティルさんが写真を落としただけだよ」


「へぇ……彼氏の写真とかかな?」


「そんなんじゃないと思うよ。写真については忘れろと言われたし……」


「口止めした女神様は今ここにいないし、どんな写真だったか教えてよぉ」


 加奈の興味は秘密にされた写真に向けられると、ゴシップ好きな彼女の血が騒いでいる。

 加奈にせがまれると、時雨は折れてしまい差し障りがないない程度の内容を告げる。


「ここの病院の集合写真みたいだったよ。写真の裏にはカーン・リベスター様の視察とか書かれていたけど、加奈が期待しているような……」


 時雨がそう言うと、意外な事に今度はシェーナが血相を変えて喰い付いた。


「それは本当なのか!」


「あ……ああ、間違いないよ」


 シェーナは凄む勢いで問い掛けると、時雨は頷いて答える。

 そして、車から飛び出して廃病院の中へ入るシェーナを呼び止めようと時雨は後を追った。

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