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第286話 写真の男

 足元に注意しながら、懐中電灯で室内を照らすが、とくに変わった様子は見当たらない。

 まあ、何も起きない方がいいのだが、やはり夜の廃病院は不気味な感じだ。

 壁際に小さな棚が置かれているのを見つけると、医療用の薬品みたいな物がズラリと並んでいる。


「鍵が掛かっていますね」


 時雨は棚を調べてみようとしたが、どうやら鍵が掛かって厳重に保管されている。


「危険な薬品の類があるかもしれない。ここはもういいから、次へ行くぞ」


 キャスティルは時雨を棚から引き離すと、紅葉と一緒に集中治療室(ICU)を後にする。

 鍵が掛かっているとはいえ、得体の知れない薬品に近付けさせないキャスティルの判断は正しいだろう。

 口は悪いが、時雨達の事を危険から見守ってくれている。

 暗がりの廊下を歩きながら、紅葉は時雨を気にして話し掛ける。


「凛は怖がって棄権(リタイア)したが、時雨は怖くないのか?」


「大丈夫ですよ。これでも、紅葉先輩から剣を教わって心身共に鍛え上げていますからね」


「それは前世の話だろう。今日のクレームもそうだが、今は普通の女子高生なんだから、無理はしないと約束してくれ」


「……分かりました」


 紅葉は時雨と剣を手合わせして、身体能力は普通の女子高生と変わらないのは十分に分かっている。

 それは時雨自身が一番理解している事だ。

 結果的に今日のクレームも皆を心配させてしまい、前世の姿だったらあんな失態はしなかっただろう。

 もどかしい思いは募るが、鏑木時雨として真剣に向き合う時期にあるのかもしれない。


「あれは……光か?」


 二人は並んで暗がりの廊下を慎重に歩いていると、紅葉は半開きの扉から明かりが漏れているのに気付いた。

 時雨も目を凝らして確認すると、たしかに明かりが漏れていて見間違えではない。

 見取り図の位置から察するに、そこは手術室になっている筈だ。

 電気が通っていない筈の手術室に明かりが灯っているとネット掲示板の噂が脳裏を過ぎると、時雨は生唾を呑んで緊張が走る。


「私が先行して調べる。時雨はここで待っていろ」


「一人は危険です。私もお供します」


 紅葉の剣術は今も健在であるが、やはり前世と比べれば見劣りする。

 それに悪霊を祓う術がないので、如何に紅葉でも無事ではすまない。

 そんな二人を背後からキャスティルが割って入る。


「ここでじっとしていろ。私が許可するまで入って来るなよ?」


 キャスティルは躊躇なく半開きの扉を蹴破ると、目の前の光景に嫌気が差して軽く舌打ちをする。

歩み寄るようにキャスティルの足音だけが反響すると、しばらく無音が続く。


(大丈夫かな……)


 手術室に入って十分経過するが、何も動きがない。

 悪霊に苦戦を強いられているのか、それともやられてしまったのではないのかと様々な憶測が飛び交う。

 本人はじっとしていろと言っていたが、紅葉も同じ考えのようで突入を敢行しようとする。


「私が囮になりますから、その隙に紅葉先輩は女神様を担いで逃げて下さい」


「囮なら私が……」


「小柄な私は担いで逃げるのもままなりませんし、これでも逃げ足は速い方なんですよ。大丈夫、決して無理はしませんよ」


 時雨が囮となって、紅葉がその隙にキャスティルを救出。

 これが現状でベストな方法だろう。


「信じてるぞ」


 紅葉も承知してくれたようで、段取りは整った。

 覚悟を決めて時雨が突入しようとした時、手術室の明かりは突然消えてしまった。


「……何やってんだ?」


 それと同時にキャスティルが手術室から出て来ると、怪訝そうな顔を二人に向ける。


「よかった、ご無事でしたか。心配だったので中へ入るところだったんですよ」


「私が簡単にやられる訳ねえだろ。ここももういいから、他を当たって行くぞ」


 何事もなくぶっきら棒にキャスティルが歩き出すと、何かヒラヒラする物を落とした。

 キャスティルはそれに気付かずに、時雨が慌ててそれを拾い上げようとすると一枚の写真であった。

 写真には病院前で撮られたと思われる白衣を纏った医者と医療スタッフらしき人物が写っている。

 写真の中央にはスーツ姿の外国人らしき人物が写り込んでいるが、多分この廃病院を運営していた経営者か縁のある人物なのだろう。

 写真の裏には『2017年7月12日、カーン・リベスター様が視察へ』と書かれている。


「おい、勝手に見るな」


 引き返して来たキャスティルに写真を取り上げられてしまう。


「すいません、先程落としたので拾って差し上げたのですが……」


「ここに写っていた連中の顔は忘れろ! いいな?」


 いつになく怒りが露になると、キャスティルは写真を懐に閉まって念を押す。

 訳が分からず、時雨は頷いて答えると、キャスティルの機嫌は悪くなる一方であった。

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