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第285話 感慨にふける

 懐中電灯を照らして廃病院のエントランスを通り抜けると、壁際に病院内の見取り図が貼りだされているのを見つけた。

 それを見る限りだと、どうやら地下へ続く階段もあるようで、外観の見た目より広い構造になっている。


「香、怖くなったらいつでも私の胸に飛び込んでいいからね」


「どうせ加奈は暗がりの状況で僕の身体を触るのが目的でしょ。怖くなったら、ミュースさんを頼りにするからいいもんね」


 香と加奈は二階へ続く階段を懐中電灯で照らしながら、探索を開始する。

 加奈は相変わらずの様子でこの状況でも怖がっている様子はなく、むしろ楽しんでいる。

 香も強がってはいるが、内心穏やかではない。

 ミュースも笑顔で二人を見守りながら後へ続くと、問題は三階探索の凛と柚子だ。


「それじゃあ、私達も行きましょうか。加奈ちゃんじゃないけど、凛ちゃんも怖くなったら私を頼って胸にドンと飛び込んでもいいのよ」


 柚子は年長者として場を和ませるために冗談を交えるが、凛の反応はない。

 見取り図の前に呆然と立ち尽くす凛をよく見ると、立ったまま気絶している。

 どうやら、エントランスを通り抜けた段階で恐怖心が凛を支配してしまったようだ。


「これは参ったね。凛君は棄権(リタイア)って事で車に乗せて安静にしておこう」


「じゃあ、私もリタイアって事で凛ちゃんを介抱しますよ。三階探索はミールさんとシェーナちゃんにお任せして、私が連絡役を引き受けますよ」


 柚子は気絶した凛を背負って運び出すと、事情をシェーナに説明して急遽三階探索のメンバーを変更する。

 柚子としても、ミールが監視役に付いているとはいえ、相方の凛が棄権(リタイア)した状態で一人の探索は負担が大きい。

 それなら、女神見習いのシェーナに探索を参加させた方が適役で監視役のミールも負担は少ないだろう。

 しばらくすると、シェーナが急ぎ足で懐中電灯を照らしながらミールと合流する。


「お待たせしました。事情は柚子さんから伺っていますので、よろしくお願いします」


「急に悪いね。一人で探索が心細くなったら、遠慮なく私の胸に飛び込んで甘えていいからね」


「そ……そんなみっともない真似しません! さあ、行きますよ」


 ミールにからかわれながら三階へ続く階段を上るシェーナも探索を開始する。

 一階探索の時雨と紅葉も皆を見送ると、しびれを切らした監視役のキャスティルが煙草を咥えながら二人に探索を促す。


「お前等も早く始めろ」


「わ……分かりました」


 時雨は返事をすると、紅葉と顔を合わせて懐中電灯を照らしながら薄暗い廊下を歩き出す。

 見取り図を見る限りだと、一階はエントランスのすぐ近くに集中治療室(ICU)や手術室と命に直結する重要な施設がある。他には一際大きな厨房スペースと食堂が併設されて、救急や入院受け入れスペースも設けられていたようだ。

 紅葉は廊下の先を見つめながら、感慨にふけて昔の記憶が蘇る。


「まさか、あの時の訓練生と肝試しをやる事になるとは人生何が起こるか分からんな」


「そうですね。こうして同じ女子高に通っている事も不思議な縁ですが、私は悪くない感じですよ」


「ふふっ、それは私もだよ。昔は死霊退治もこなしてきたが、今はさすがに魔法も使えないし対抗する術がない。やばくなったら、私を置いて逃げてくれ」


「そんな!? 何かあったら私が殿を務めますので、先輩こそ逃げて下さい」


 時雨にとって紅葉は憧れの人であり、大切な人だ。

 前世では伝えられなかった初恋の相手に想いをぶちまけたりもしたが、今は潜在的に凛と恋心が芽生えていたりもする。

 恋愛に関して素人である時雨はどう対処すればいいのか四苦八苦している現状だ。

 時雨なりに真っ直ぐぶつかって、不器用な範囲で頑張るしかない。

 二人は襲われた時の主導権をどちらが握って避難させるか口論になると、後ろで距離を取っていたキャスティルが二人のやり取りに我慢ならず一喝する。


「アホか! そうならないために私がこうして監視しているんだから、夫婦漫才している暇があったら口より足を動かせ」


 正直、この女神は幽霊やお化けより怖い。

 見取り図にあった集中治療室(ICU)の扉を開閉すると、二人は言われた通り探索に目を光らせる。

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