第284話 廃病院
時雨達は乗って来たレンタカーで肝試しをする会場へとやって来た。
ミールが指定したのはネットのオカルト掲示板で有名な廃病院。
電気が通っていない筈の手術室に明かりが灯っていたり、待合室から足を踏み入れた者の名前を告げて診察のアナウンスが流れたり、コートを羽織った不審者の情報といった目撃情報が寄せられている。
(本格的だな……)
肝試しと言うから、近場の山沿いを一周して回るぐらいだろうと安易に考えていたが、まさかネットで有名な心霊スポットへ赴くとは予想していなかった。
「凛先輩、無理しなくていいですよ」
「私なら平気よ。お化けなんて……全然怖くないわ!」
明らかにやせ我慢している凛を時雨は気にかける。
デートでホラー映画を観賞へ行った時も、凛の中には恐怖心と一緒に好奇心も潜んでいたのを覚えている。結局、上映の途中で気絶してしまったが、今回肝試しの最中に気絶してしまったら状況的にまずい展開だ。
「心配ないよ。女神がいる限り危険な目には遭わせないさ。いざとなれば、私が全力で幽霊を浄化するからね」
「お前が本気になったら、地球どころか太陽系が浄化されるからやめろ」
煙草を咥えながらキャスティルは呆れた口調でツッコミを入れる。
スケールがデカ過ぎて冗談のように聞こえるが、ミュースも宥めるようにお願いに回っている様子から多分本当なのだろう。
「浄化作業は私がやりますので、ミール様は支援をお願いします」
「そうかい? ああ、そういえばミュースは女神になる前は聖女だったね。それなら、本職の聖女様に任せようかな」
ミールはミュースの肩を叩いて納得するように支援役を引き受ける。
どうやら、ミュースは女神に取り立てられる前は地上で聖職者の地位にいたらしい。
普段から修道服に身を包んでいたのは聖女と謳われていた頃の名残りのようだ。
「……本当にやるのか?」
「何かあった場合は私が責任を取るよ」
キャスティルが最終確認を取ると、ミールは覚悟を決めている。
肝試しのルールは廃病院内の各階層を振り分けられたペアが探索する事。二人一組のペアに別れて、各ペアに女神が一人監視役に付く。
ペアの内訳は公正にくじ引きで決めていく。
一階を探索する時雨、紅葉のペアにキャスティル。
二階を探索する加奈、香のペアにミュース。
三階を探索する凛、柚子のペアにミール。
シェーナは三組の連絡役として車に残ってもらうことにする。
続行が危険と判断された場合は女神が適切な処置を施して、時雨達を安全な場所へ誘導する手筈になっている。
「さあ、始めるよ」
ミールが手拍子して肝試し開始の合図を送ると、各々ペア同士で緊張した足取りになって臨んだ。




