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第276話 アルバイト開始

 門倉によるレクチャーを受けると、早速時雨達は仕事に取り掛かる。

 主にお客の案内、配膳作業、注文の受注、会計作業等をする接客業務。キッチンで門倉を主体として調理補助をする。

 接客業務には時雨、柚子、香、加奈、凛、紅葉、キャスティル、ミール。

 調理補助にはシェーナ、ミュース。

 それぞれ担当を振り分けられると、細かな部分は皆の働きぶりを見ながら調整する段取りだ。


「い……いらっしゃいませ」


 時雨は恥ずかしさから小さな声で客を出迎えてしまう。

 騎士以外で初めて給金をもらう仕事に就いたが、今は鏑木時雨として女子高生の立場から一際目立つTシャツに下は水着を着用している事もあって妙に落ち着かない。

 その初々しい姿を目にした客は女子大学生の集まりで、時雨が研修中であるのを察して拙い接客になっても可愛らしい女子高生として気にする様子はなかった。

 時雨以外の女性陣は卒なくこなして、店の回転率を上げている。

 加奈は長耳を隠すために帽子を被りながら、普段の明るい性格と弁が立つところが功を奏して上手く対応している。凛と紅葉も王族、貴族出身だった経歴もあり、接客は苦手意識があるのではと思ったが、他国と交流も兼ねて礼儀作法は一通り学んでいたのが活きた。香も初見は時雨と同様にぎこちない対応であったが、キャスティルがフォローして次第に様になってきた。

 時雨も負けてられないと気合いを入れ直して仕事に励むと、しばらくして問題が発生してしまう。


「それはできない相談だね」


 客の眼前で悠然と言い放つミールは一組の客と揉めていた。

 どうやら、配膳した料理に異物が混入していたらしく、若い男がクレームを付けていた。

 新しい料理の交換と詫びとして食事代の無料を要求すると、ミールは拒否を示した。


「おいおい、客に対してその口の利き方は何だよ。教育がなってないんじゃないの?」


 ミールの態度が気に入らなかった男は席を立つと、威圧的に凄んでみせる。

 すぐ近くにいた時雨が間に入って止めに入ると、男は時雨を突き飛ばす。

 その勢いで床に倒れ込んでしまうと、香が傍に寄って介抱する。


「こちらに非があれば応じるけど、これは君が混入させた物だ」


「俺がやったって証拠があるのかよ? あるなら出してもらおうか」


 海の家に防犯カメラがある筈もなく、決定的な証拠はないと踏んで相手は強気だ。

 今度はキャスティルが間に入って、この場を鎮めようとするがミールがそれを制する。


「証拠ならあるさ。そこの君達、ちょっといいかな?」


 ミールが客の中から外国人の男二人に声を掛けると、小声で何か喋り始める。

 キッチンから騒ぎを嗅ぎ付けた門倉が青ざめた表情で対応に当たろうとすると、クレームではなくてミールに向けている。


「ど……どうかお怒りを鎮めて下さい!」


 必死に頭を下げてなだめようとする門倉はまるで神の怒りを鎮めるみたいだ。

 神である立場の門倉が畏怖するのだから、それだけに恐ろしさが際立つ。

 何だこいつと言わんばかりに、クレームの男は門倉を一瞥すると、外国人二人が席を立ってクレームの男に詰め寄る。


「な……何だよ」


 その異様な雰囲気にクレームの男は不安そうな声を上げる。

 外国人の一人が無言で懐からスマホを取り出すと、クレームの男にそれを見せつける。

 すると、クレームの男は表情を一変させてテーブル席に代金を置くと逃げるように去って行った。

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