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第273話 来世は安らかに

「ミール様とキャスティル様がこのような場所に降臨されたのは……私の人事異動を告げるためじゃないですよね?」


「そんな訳あるか。仕事に決まっているだろ」


 面倒臭そうにキャスティルが椅子に腰掛けながら門倉の問いに答える。

 この門倉と言う男、問題を起こしてこの地に飛ばされた中間管理職の神らしい。

 表向きは生態調査の名目で最低限の物資を支給されたが、実際は左遷させられて厄介払いされた。それでも、中間管理職で培った経験と女性の人心を掌握する術を心得ていたので、度重なる実績を得て今の旅館と海の家を経営するオーナーまで上り詰めた。


 しばらく自身が神だった事を忘れて、オーナーとしての仕事にやり甲斐を見出していたが、今日から元モデルの柚子が連れて来た女子達と仕事をこなす事に浮かれていたのが悲劇の始まりだった。昼食を共にして挨拶代わりに粒揃いの女子達と仲良くなろうと魂胆が透けていたが、その中にかつての上司に当たる創造神と運命の女神がいたのだから心底穏やかではいられなかった。


「いやぁ……世間って意外と狭いものですね。まさか、お知り合いだったとは思いませんでした」


 柚子が土下座する門倉とそれを見下ろすように足を組んで座っているキャスティルを横目に素直な感想を述べる。

 構図的には女王様にうだつが上がらない中年男だ。


「お二方には最高級のスイートルームをご用意します!」


「お前の無用な接待は受けねえよ。お前はオーナーとしてアルバイトである私達を上手く使いこなせばいい」


 上から目線なキャスティルだが、これではどちらが雇い主でアルバイトなのか。

 滅相もないと言わんばかりに門倉はキャスティルとミールをアルバイトとして雇う事に躊躇してしまう。

 そんな事をしている間に、注文していた料理が運ばれて来ると、土下座している門倉に店員が面喰ってしまう。


「この話はこれで終わりだ。それでいいよな?」


「わ……分かりました」


 半強制的に話がまとまると、門倉は頷いて立ち上がり席へ着く。

 ここまでの道程で色々あったが、豪華絢爛な海鮮料理がそれらを吹っ飛ばしてくれた。

 門倉にとって女子達と楽しい昼食を取るつもりが、キャスティルの目が光っている内はそれも叶わない。

 そんな門倉にミールは小さな声で耳打ちする。


「彼女は照れ屋なツンデレさんだから、君はオーナーとしていつも通りにしていればいいよ。運命の女神様も日夜激務をこなして恋愛とはかけ離れた生活を送っていたからね。彼女の凍り付いた心を君が解かしてあげるんだ」


「私がですか?」


「そうそう。口では突っ張っているけど、本当は甘えたいんだよ。元々君は可愛い女子達を口説くためにここへ来たんじゃないか。さあ、勇気を振り絞ってトライしよう」


 ミールが門倉を焚き付けると、門倉は時雨達が目を輝かせて楽しく食事をしている隅で黙々と海の幸を堪能しているキャスティルを一瞥する。

 門倉の性格を言い当てた創造神の言葉に真実味が増すと、熊やゴリラのような恐ろしい運命の女神が次第に可憐な乙女へと変貌する。


 まるで魔法にかけられたかのように――。


 意を決した門倉は席を立つと、その異様な雰囲気に時雨達の視線が集中する。


 海鮮料理に舌鼓を打っていたキャスティルの横に門倉が立つと、明らかに迷惑そうな顔でキャスティルは睨み付ける。


「何のつもりだ?」


「上等なワインが手に入ったので、今晩私と晩酌に付き合っていただけませんか?」


「お前、この私を口説いているつもりなら他を当た……」


 他を当たれと突っぱねるつもりだったが、何を思ったのか門倉は大胆にもキャスティルに抱き付いたのだ。

 これには一同驚きと同時に凝視してしまうと、その後の展開が容易に想像できた。


「自殺志願者かしら……来世は安らかに」


 ミュースも辛口な評価を下すと、天に祈りを捧げる。

 そして、強烈な罵声と殴打の嵐が門倉を襲い地面に叩き付けられた。

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