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第272話 オーナー

 各々注文を終えてしばらくすると、柚子が知らない中年の男を連れて合流する。


「皆、お待たせ。こちらは今回お世話になる旅館と海の家を経営するオーナーの門倉(かどくら)さんよ」


「初めまして。どうぞよろしく」


 門倉と名乗る男はにこやかに一人ずつ握手の挨拶を交わして行く。

 どうやら、昼食を同席したいと願い出たようで断る理由もなかった柚子はここまで案内したようだ。

 これからお世話になる雇い主に失礼がないように時雨は名前を告げて挨拶すると、門倉は目を輝かせて喰い付く。


「柚子ちゃんの妹か。こいつは将来べっぴんさんになるなぁ」


「ど……どうも」


「時雨ちゃんもモデルの仕事をしているの?」


「いえ、私はモデルとかやってないです」


「勿体ないなぁ。俺の知り合いに芸能関係の人間がいるから、口利きしてあげてもいいよ」


「あ……ありがとうございます」


 オーナーの立場もあって、芸能界にも顔が利く辺り人脈は広いようだ。

 門倉に圧倒されながらも、社交辞令として受け取って感謝の言葉を述べる。

 時雨ちゃんと気安く呼ぶ門倉に香が不満気な表情をしているのに気付くと、傍にいたミュースがそっと肩に手を添えてフォローする。

 門倉は他の女性達にも先程の時雨と同じような誉め言葉を並べると、この人は根っからの女たらしのようだ。

 シェーナと握手を交わし、残るは上位女神三人と順番が回って来た。


「おお、朱に染まった髪が情熱的で美しい方だ! お顔を拝見してもよろしいですか?」


 キャスティルの髪の色を褒めちぎると、門倉は俯いている彼女の前髪を掻き上げて素顔を覗こうとする。

 素顔が露になると、キャスティルは不敵な笑みを浮かべて挨拶を交わす。


「よぉ、随分と久しぶりだな」


「えっ?」


 門倉はキャスティルの前髪を掻き上げたまま、額から嫌な汗を流しながら身体を硬直させてしまう。

 まるで蛇に睨まれた蛙の図だ。

 恐怖に引きつった顔になる門倉はその場で腰を抜かしてしまうと、キャスティルは軽々と首根っこを持ち上げて門倉に問い詰める。


「おいおい、旧友と再会して嬉しさあまりに腰を抜かすとは相変わらずだな」


「何で運命の女神様がこんなところに……」


 驚いた事に門倉はキャスティルを運命の女神と承知している。

 二人の口ぶりから、元々知り合いだったように見える。


「女神に三股仕掛けて左遷させられたのは知っていたが、まさかここに飛ばされていたとはな」


「あれは出来心でつい……でも、カフテラ様と恋仲だったあの人に比べたら俺はマシですよ」


「左遷させられても反省の色なしだな。そのクソみたいな性格は一回死んで治してやろうか?」


「うそうそ! 冗談ですよ。俺は心を入れ替えてこの地で仕事に勤しんでいますからね」


 キャスティルは鼻を鳴らして門倉の首根っこを放すと、門倉は床に倒れ込んで乱れた息を整える。

 慌ててキャスティルと距離を取ってこの場を離れようとする門倉の前に、ジャージ姿のミールが立ち塞がる。


「やあ、元気そうで何よりだね」


「まさか……貴女様は創造神ミール様?」


「ピンポーン。分かり易く正解を胸に名前を刺繍してあるから簡単な問題だったね」


 前方にはミール、後方にキャスティルに挟まれた門倉は顔が真っ青になる。

 そして綺麗な土下座をして、門倉は改めて襟を正す。

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