第270話 水と油
女神が無免許運転で警察に逮捕される。
あまり想像できない絵面だが、芸能人や政治家のスキャンダルより遥かに衝撃的なニュースだ。
「まあまあ、ここにいる皆が黙っていれば済む事だからね」
反省の色が見えないどころか、女神に相応しくない小悪党な台詞をミールが吐く。
可愛らしく人差し指を口に当ててナイショのポーズを取ると、キャスティルも複数の男相手に囲まれて、柚子も気絶して車を動かせない緊急事態だった。
「でも、ミールさんのおかげで車をあのまま停車させていたら危険だったかもしれませんので緊急回避の名目が適用されると思いますよ」
「そうそう、緊急回避さ。女神として当然の処置だよ」
時雨がフォローすると、ミールもそれに乗っかって正当性を主張する。
騎士として無免許運転は見逃せないところだが、助けてくれたのは事実である。
やれやれと言わんばかりに、キャスティルは呆れながら呟く。
「一回、警察に捕まって反省してこい」
「高速道路の爆破事件、米軍襲撃を引き起こしたどこかの女神様に言われたくないなぁ」
「あ?」
ミールは涼しい顔で口笛を吹きながら、それに反応するキャスティルは鬼の形相で睨み付ける。
車内は女神達による一触即発ムードで空気は重いが、内容は子供の他愛無い喧嘩と変わらない。
今度はシェーナが仲裁に入ると、上司の女神二人をなだめめる。
「まあまあ、せっかく海へ行くのに喧嘩は止めましょうよ」
「元はと言えば、お前や転移者があの時無断に地球へ帰還しようとしなければ米軍襲撃はしなかったんだ。お前もその辺を少しは反省しろ!」
「す……すみません」
思わぬ飛び火がシェーナに降りかかると、これには参ってしまう。
これだから最近の若い奴はと説教を垂れ始めようとすると、ミールが先程のキャスティルと同じように呆れた口調で言葉にする。
「こらこら、古い価値観を押し付けるのは駄目だよ。他の女神達にもそんな調子だと顰蹙を買ってしまうよ」
「別に私は女神達に好かれるために仕事をしている訳じゃねえよ」
「じゃあ、これからは女神に好かれる女神を目指して頑張ろう。創造神のお姉さんと約束できるかな?」
「ふん、創造神のババアとなら約束してもいいぜ」
キャスティルがミールを煽り、二人共負けず嫌いな性格の持ち主なので一歩も引かない。
水と油のような関係だ。
(助けて……神様)
この場を鎮められる神様はいないだろうかと時雨は神に祈りを捧げる。




