第261話 二度目の遭遇
車は高速道路へと繰り出して、見渡しの良い走行車線を走っている。
幸いにも渋滞している様子はなく、天候も穏やかだ。
「あの……キャスティルさん」
「何だよ?」
シェーナは遠慮がちでキャスティルに声を掛けると、柚子の運転を注視しながらキャスティルは答える。煮え切らない様子のシェーナに、もしかして久方振りに乗る車に車酔いをして気分でも悪くなったのか、それとも単純にトイレに行きたくなったのだろうか。
「高速道路で絡まれてもあんな真似は二度としないで下さい」
シェーナは意を決して訴えかけるように呼び掛ける。
あんな真似とは一体何だろうと時雨は二人の様子を窺っていると、キャスティルは深い溜息を付いてしまう。
「そういえば、お前は私のデート現場を盗み見していたんだったな。良い趣味とは言えないぞ」
「はぐらかさないで下さい! 俺は真面目に言っています」
こんなに怒りを露にするシェーナは初めて見る。
それも上司の女神であるキャスティル相手にだ。
「二人共、急にどうしたのよ?」
柚子が心配そうによそ見をして隣にいるキャスティルに目を合わせようとすると、「お前は前方だけ集中しろ」と一喝される。
「シェーナ、とりあえず落ち着いて」
時雨はシェーナを宥めると、シェーナは無言で俯いたままになってしまう。
香もシェーナの手を握って語り掛けるが、その様子に変化はない。
せっかく楽しい雰囲気で場が盛り上がっていたのに、不穏な空気がこの場を支配する。
「そうだ! ラジオでもつけようかしら」
機転を利かして柚子はハンドルを片手に握ったまま、オーディオ機器を操作してラジオをつける。
ラジオから流れる選曲を柚子は口ずさんで歌いながら、時雨達を促す。
「ほらほら、皆も歌ってみてよ。女神様もその美声をせっかくだからここで披露して下さいよ」
「歌いたければ勝手にしろ」
助手席側の車窓を開けて、真紅の髪をなびかせながらキャスティルはそっぽを向いて景色に浸る。
時雨は空気を読んで柚子に合わせて歌を口ずさむと、香もそれに続いてその美声を披露する。気分が乗ってきたところで手拍子しながら和やかな雰囲気を取り戻していく。
「ちっ……呑気な親子達だ」
この時ボソッとキャスティルは呟くが、時雨や香は歌に集中していたので聞き流してしまう。
しばらく歌で盛り上がっていると、背後の車からクラクションを鳴らされる。
背後の車はすぐに追越車線へ飛び出して悠々と時雨達の車を追い抜くと、再び走行車線へ戻って時雨達の前方を塞ぐようにして走行を始める。
(あおり運転か……)
意図的にスピードを緩めて事故を誘発するような走行をするやり方はあおり運転だ。
これには柚子も面喰ってブレーキを踏んでしまう。
「前回もそうだったが、この手の人間は死なねえと分からないみたいだな」
「キャスティルさん!」
「路肩に止めろ。私が相手をするから、お前等は車から一歩も出るなよ」
シェーナの悲痛な叫びも虚しく、聞き入れる気はない。
キャスティルは時雨達に指示を出すと、車を路肩に止めて相手の車もそれに合わせる。
助手席の扉を開けて外へ飛び出すと、無造作に真紅の髪を掻き上げる女神はあおり運転手と正面切って対峙する。
今回のシェーナとキャスティルのやり取りについては別作品『群雄割拠した異世界では訳アリな人物で溢れていた』第244話を参照していただければ幸いですm(__)m
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