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第257話 良い報告と悪い報告

 夕食は冷蔵庫にある物を使って、シェーナが腕を振るってくれた。


「簡単な出来合わせだが、食べてみてくれ」


 エプロン姿のシェーナは謙遜しながら食卓に料理を運ぶと、どれも目移りしそうな良い匂いが食欲をそそる。


(うう……美味しい)


 異世界で料理屋を営んでいるだけあって、悔しいが時雨の作る料理よりレベルが高い。

 凛も舌鼓を打ちながら、シェーナの料理を堪能する。


「シェーナの料理は美味しいわ。こちらでも店を出店したらどうかしら?」


「気に入ってくれたのは嬉しいけど、週一しかこちらにいられないからね」


 シェーナは冗談だと思い笑って答えるが、開店に必要な出資金も提供すると、その本気度が窺える。

 舌が肥えている凛のお墨付きとなれば、十分に説得力がある。


「それに、ミュースさんやキャスティルさんの許可なく店の営業を始めたら怒られちゃうからね」


 上司の女神を差し置いて勝手な振る舞いはできないと主張する。

 女神の立場で考えたら、シェーナは半神であり待遇はアルバイトに近い。


「それは残念ね」


 凛もシェーナの立場を理解してシェーナの作った料理を口に運びながら渋々と諦める。

 時雨も勿体ない気持ちではあるが、こればかりはどうしようもない。


「私は前世のこの世界へ来られただけでも幸せだよ。それ以上望むのは罰が当たるよ」


「シェーナ……」


 シェーナはエプロンを脱いでしんみりした様子で食卓に着く。


「さあ、冷めない内に食べよう。おかわりは沢山用意してあるからね」


「そうだね。シェーナの料理は美味しいから、さすがに私も食べ過ぎて太っちゃうかもしれないよ」


 空元気なのはすぐに分かったので、時雨は空気を読んで話を合わせる。

 凛も話題を変えて、時雨が勧めた漫画を持ち出してゴスロリ風の衣装はこれを参考にしたと見せてくれた。他にも参考にした衣装があると部屋の奥からファッション誌を山積みのように持って来て、ページを一枚めくろうとした時だった。


 凛は瞬き一つしないで、まるでその場に凍り付いたかのように動かなくなってしまったのだ。


「凛先輩! しっかりして下さい!」


 この異常事態に時雨は大声で凛の身体を揺らすが、反応は全く変わらない。

 シェーナは席を立つと、真っ先に時計の針を確認して事態を把握する。


「時間が止まっている。こんな事ができるのはあの方しかいない……」


 どうやら、シェーナには心当たりがあるようだ。

 たしかに時計の針は止まって、スマホの時計も全く進む気配がない。


「やあ、楽しい夕食中に失礼するよ」


 窓際から女性の声がする。

 誰かが部屋に侵入した形跡はなかった筈だが、見覚えのある黒いフードを被った者が眼前に映っていた。


「やはり……貴女でしたか。創造神ミール様」


 ミールとはキャスティルとカフテラの二人組がミュースに絡んでいた時に現れた女神だ。

 あの傍若無人なキャスティルやカフテラも彼女の前ではバツが悪そうに応じた。


「そんなに身構えないでくれよ。今日は二人に良い報告と悪い報告を伝えに来たんだ」


 ミールはソファーに腰掛けると、二人を手招きして呼び寄せる。

 女神、創造神の肩書きがある彼女から口頭で良い報告と悪い報告が発表されるのだから、緊張感が張り詰められてどうにかなってしまいそうだ。

 そんな時雨の心情を察したのか、先程までソファーに腰掛けていたミールはいつの間にか時雨の隣に立って肩にそっと手を添える。


「ほらほら、こちらにおいで」


「は……はい!」


 キャスティルのこっちへ来いと言わんばかりの怒声より、ミールの微笑はそれ以上に得体の知れない恐ろしさを垣間見た。

 シェーナも黙ってそれに従うと、二人はソファーに座って眼前の女神と対面する。


「良い報告と悪い報告、どちらから聞きたい?」


「それでしたら……良い報告からお願いします」


 いきなり悪い報告から聞くのは精神的に堪えそうなので、時雨は良い報告を選んだ。

 ミールは二人に視線を合わせながら、軽い口調で語り始める。


「良い報告ね。実は時雨君達が海へ行く間、シェーナ君も同行させる事を決定したよ。だからその間、ここへの滞在は伸びるからよろしく頼むよ」


 それはたしかに良い報告であった。

 時雨も海へ行っている間、シェーナを一人残してしまうのは心苦しいと思っていた。


「悪い報告については直接君達に関係はないのだけど、その海へ行く過程で監視が付くのさ。楽しい海の旅行に水を差す感じになって申し訳ないけど、よろしく頼むよ」


 用件を言い終えると、ミールは二人に握手を交わす。

 最後に「頑張ってね」と告げると、その姿を消して時間も元通りになって針を進めていた。

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