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第256話 何が食べたい?

 空はすっかり暗くなり、選んだ洋服は配送する手筈を整えると、タクシーを乗り継いで凛のタワーマンションに到着する。相変わらず見栄えのするエントランスを通り過ぎると、シェーナは落ち着かない様子で周囲を見渡す。


「都心のブランド店を訪れた時点で予想はしていたけど、すごいマンションだね。家賃を聞くのが怖いぐらいだ」


「ふふっ、やっぱり時雨とシェーナは似た者同士ね。初めてここを訪れた時雨も同じような質問をしたのよ」


 一般庶民である時雨には縁がない物件であり、シェーナも下級貴族出身ではあるが現在は街の一角で細々と料理店を営んでいる立場だ。

 いつかは出世して大豪邸の一軒家や凛のタワーマンションを購入したいと夢見るが、いざ住むとなると持て余しそうだ。それにローン返済やその他生活費をやり繰りして、家計簿と睨めっこして溜息を漏らすのも安易に想像できる。


「本当に毎週泊まりに来ても大丈夫なのか?」


「大歓迎よ。我が家だと思って楽にしてちょうだいね」


 当初マンションと伺っていたが、まさか高層のタワーマンションとは思ってもいなかったシェーナは改めて凛に確認を取る。

 凛としては普通に友人を泊める感覚なのだろう。


(まてよ……)


 一人暮らしじゃなくて、誰かと住めばどうだろうか。

 例えば、購入した大豪邸に凛と居住したら毎朝彼女と顔を合わせられる。

 朝は熱いモーニングコーヒーを静かな空間で楽しめるし、昼間は風に揺られて散歩をしたり、凛の趣味である読書も落ち着いた喫茶店に入って二人だけの時間を過ごす。


 そして夜は綺麗な星空を背景に肩を寄せ合って――。


「時雨は今晩何が食べたい?」


「凛先輩……」


 時雨は妄想にふけっていると、思わず凛の名前を声に出してしまった。

 凛はシェーナに夕食は何が食べたいか希望を聞いていたところ、時雨にも訊ねた際にとんでもない返答が返って来る結果となってしまった。

 呆然と二人を眺めるシェーナを他所に時雨は我に返る。


「すみません、ぼーっとしてました。何か言いましたか?」


「……何でもないわ」


 凛は機嫌を損ねてそっぽを向いてしまう。

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