第255話 披露宴
目移りしそうな衣服や装飾品を凛が吟味すると、それをシェーナが試着室で着替えていく。
「これは……恥ずかしいな」
白のワンピース姿のシェーナが恥ずかしそうに披露する。
「なかなか似合っているわよ」
凛が満足しながら頷くと、服装が変わるだけでこうも印象が変わるのかと時雨はその姿に見入ってしまう。
一言で感想を述べると、女神が地上に降臨したと言える。
元々、女騎士として訓練を積んでいた経験もあって、体幹は鍛えられている。さらに長身で銀色のサラサラな長髪を掻き分けると、男を虜にする色香のような物を放っているように見える。
「あまりジロジロ見ないでくれよ」
二人の視線に耐えかねて、シェーナは試着室のカーテンを閉めて隠れてしまった。
前世が男子高校生であるシェーナにとって、その姿で出歩くのは勇気がいるのかもしれない。
「普通に似合っているよ。似合い過ぎて一瞬心を奪われそうになったぐらいだ」
「社交界でもこんな感じのドレスを着させられて参加した事があるけど、貴族の男達に言い寄られて大変だったんだよ」
時雨は素直な気持ちを伝えるが、シェーナにとってトラウマを誘発させる結果となってしまった。
たしかに、あのシェーナを一目見たら貴族の男達が夢中になるのも無理はない。
現に時雨も見惚れてしまったぐらいだ。
貴族令嬢の名に相応しい姿だと思えたが、本人が嫌がっているのなら他の服を選ぶしかない。
(くっ……残念だ)
気を取り直して、シェーナは次の服に着替えていく。
今度は黒を基調にしたゴスロリ風のシェーナが姿を現すと、可愛いと言うよりカッコいいと言う言葉がしっくりくる。
付属品の傘を広げて見せると、ミステリアスな雰囲気が魅力的で悪くはない。
「コスプレ感が半端ないよ」
「それは時雨が紹介した漫画の『悪役令嬢はメイドと恋をしたい!』に登場するゴスロリちゃんをイメージしたの。時雨達とコスプレをした経験も活かして、機能性を重視して職人に試作品を作らせたの」
そういえば、凛は時雨が紹介した漫画と加奈が紹介したコスプレに満足していたのを覚えている。
まさか、その経験がこんな形で昇華されるとは夢にも思わなかった。
(すまん、シェーナ)
ゴスロリ風のシェーナに心の中で時雨は謝ると、シェーナは次々と着替えていき、ネタ要素を含んだ服にも果敢に挑戦し、ミュースの着こなしているような修道服も堪能させてもらった。
最終的に長身で大人びているシェーナにはカジュアルを基調にした爽やかな白パンツと白ブラウスを試着させると、上品な女性を演出している。
「通気性も悪くないし、今までと比べたら全然いいよ」
やっと気に入った服を見つけたシェーナはほっと胸を撫で下ろす。
「とりあえず、お疲れさま」
時雨はシェーナに労いの言葉を送ると、充実した達成感がこの場に広がる。
「次は時雨の番ね」
「えっ?」
凛が時雨の肩に手を添えると、どうやら次の標的を時雨に絞り込んでいる。
このまま幕引きしたかったが、シェーナも凛に倣って手を添える。
「俺も時雨の着替えを楽しませてもらうよ」
「ははっ……」
当初と目的の趣旨が変わってしまったが、この後時雨も凛とシェーナにネタ要素満載の服に着替えさせられて楽しい披露宴は続いた。
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