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第253話 通学路の二人

 翌日、テスト明けの放課後は部活動も解禁されて校庭や各教室は賑やかさを取り戻していた。


「今日から週一でシェーナさんが泊まりにいらっしゃるけど、時雨と同じような境遇なのよね」


「前世は男子高校生らしいですから、今日は私もシェーナの荷物や凛先輩の身の回りの世話を中心にお手伝いしますよ」


 時雨は凛と通学路を通りながら、シェーナと約束している駅前を目指している。

 シェーナに限って大丈夫だとは思うが、時雨は二人の様子が気になって世話役を買って出た。


(シェーナと凛先輩か……)


 この二人の顔を並べてしまうと、美女の名に相応しいお似合いの組み合わせだ。

 お節介なのは重々承知だが、万が一、二人が一線を越えた関係になったらと思うと平常心ではいられない。


「ふふっ、ありがとう」


 凛は礼を言うと、そっと時雨の手を繋ぐ。

 柔らかくて温かい彼女の手は愛おしそうに時雨を包み込む。


「り……凛先輩、他の女子生徒に見られたら大変ですよ」


「いいの。時雨とこうして歩きたいから……それとも、私と手を繋いで歩くのは嫌?」


「いえ、決してそんな事は……ないです」


「じゃあ、このまま行きましょうか」


 凛は時雨の手を引いて歩き出すと、まるで騎士がお姫様をエスコートするかのようだ。

 これには時雨の心も揺らいで凛が頼もしい存在に見える。

 前世と立場を逆転させて眺める景色も悪くはない。

 凛が時雨の顔を窺いながら、感慨深い様子で夏の海について語る。


「海の家で時雨とアルバイトか。働くなんて初めての経験ね」


「凛先輩は前世で王族の役目を果たしていたではありませんか」


「王族は自由気ままに過ごしてきたから、正直言って働いていたって感覚はないのよね。その点、時雨は騎士に登用されて働いていたから働く事に新鮮味はあまりない感じかしら?」


「そんな事ありませんよ。騎士と海の家でアルバイトでは全然職種も違いますし、それに凛先輩や紅葉先輩と肩を並べて働ける環境は夢のような展開ですよ」


 時雨が知る限り、口では軽く言っているが、凛は為政者としてこの上ない働きを全うしてきたと思っている。

 息抜きで城を抜け出して街中を探索したり、僻地の村々を視察に向かったりしたのも現状の民の暮らしぶりを把握するためだった。

 後になって気掛かりになったのはそんな凛を気安くアルバイトに誘ってしまい、分不相応な仕事を押し付けたみたいに思われていないだろうか。


「少し悪いなと思っているんですよ。ほら、凛先輩ならアルバイトしなくても普通に海を楽しめられたのではありませんか?」


「時雨とアルバイトしながら海を堪能した方が有意義よ。参加者の女性陣もきっと同じ想いだと思うわ」


 時雨の胸中を察した凛は「つまらない事を気にしないで」と付け加えてにこやかに答えた。

 それを聞いた時雨は胸を撫で下ろすと、アルバイトを紹介してくれた柚子やそのきっかけを作ってくれたキャスティルには感謝しかない。


「そうですね、失礼しました」


「ふふっ、今から待ち遠しいわ。それまでに私も水着を新調して時雨をあっと驚かせるわ」


「頼みますから、普通の水着でお願いします」


 照れ隠しをしながら、時雨は水着に関して人目に付かない程度にと強く念を押す。

 そんな二人の会話をしていると、シェーナと約束している駅前が見えて来た。

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