第252話 困った連中
ミュースも海を堪能したいと言う事で、すんなりアルバイトの参加を了承する。
キャスティルを含めて女神二人が海の家でアルバイト。
普通に考えれば、招き猫みたいなご利益が期待できそうである。
「期待に応えて、私はマイクロビキニにしようかしら」
「お前なぁ……目立つ真似は控えろよ。それに年齢を考えろ」
ミュースの挑戦する意気込みを聞いた時雨は普段修道服姿の彼女からマイクロビキニ姿を瞬時に頭の中で想像を膨らませてしまう。
キャスティルは肉を頬張りながら、年甲斐もなくはしゃぐミュースに女神として人目に付くのを気にしている様子だ。
時雨としては騎士として別の水着をミュースに勧めたいところであるが、心の奥底では見てみたいと欲望が渦巻いている。
「学校に教師じゃなくて女子高生に扮しようとした女神様に年齢をとやかく言われたくありませんねぇ」
「こんな可憐な女神様を前にしたら、女子高生役でも問題ないだろ。いいから大人しく普通の水着にしておけ」
そんな裏話があったのかと時雨を筆頭にこの場にいる女子達は絶句する。
どう見繕ってもキャスティルの年齢は二十代半ばぐらいが限界だ。
仮に時雨達の着用している制服を想像してキャスティルに宛てがうと、コスプレしているOLのお姉さんってところだ。
キャスティルの女子高生を演じられる自信は一体どこから湧き出るのだろうか。
それに関してはこの場にいる全員がミュースに同意する。
「まあまあ、落ち着いて下さい。今回は姉の紹介するバイトなので、ミュースさんのマイクロビキニはまた別の機会で……」
「ふふっ、冗談ですよ。当日はちゃんとした水着を用意しますのでご安心下さい」
時雨が間に入って二人の女神をなだめると、ミュースはいつものにこやかな笑顔で答える。
少々残念な気持ちにはなったが、それでも女神様の水着姿は貴重であるのに変わりはない。
アルバイトの日程について、後日柚子を通して詳しい説明がある事を皆に伝える。
テーブルには追加注文した皿やジョッキが並べられると、各々談笑しながら祝賀会は盛り上がって行く。
時雨がトイレに席を立つと、心の中で時雨に語り掛ける人物がいた。
『時雨さんの希望があれば、いつでもマイクロビキニをご披露して差し上げますからね』
時雨はハッとなって声の主に振り向くと、ミュースは軽く手を振って答えて見せた。
これには心を見透かされていると参ってしまい、時雨はどんな顔をしていいのか分からず、そそくさとトイレへ逃げるように駆け込んでしまう。
「困った連中だ」
「何がですか?」
「何でもねえよ。只の独り言だ」
加奈が不思議そうにキャスティルへ問い掛けると、煙草を咥えながらぶっきら棒に答える。
「……やっぱり女子高生より極道の女って雰囲気がするなぁ」
「あっ?」
「何でもありません! 火種をどうぞ」
加奈が口を滑らせて余計な事を言うと、ギロリと睨まれてしまう。
すぐさま、前世で社会の荒波に揉まれたスキルを活かして、加奈は畏まりながらライターの火を提供するが、こちらも時雨同様に見え透いたやり取りに嫌気が差してキャスティルは延々と愚痴をこぼしながら説教が始まった。




