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第25話 寄り道

 凛の足取りは軽やかで、時雨と一緒に泊まれる事を心躍る気持ちで一杯だ。

 急勾配の坂道を駆け上って近道をすると、住宅街の一角に小さな空き地が目に飛び込んできた。


「少し寄り道してもいいかしら?」


 凛は空き地の前で一旦足を止めると、躊躇なく空き地に入って行く。

 土地の管理は行き届いていない様子で、雑草が伸び放題である。

 こんな場所に何の用があるのだろうか。

 その答えは意外にも簡単だった。


「よしよし、マルとチビは良い子にしてたみたいね」


 雑草の茂みから段ボールが無造作に置かれて、その中には子猫が親猫の乳を夢中で吸っていた。

 マルは親猫、チビは子猫の名前で二匹とも愛らしい鳴き声で二人を出迎えてくれた。


「わぁ、可愛いですね」

「最近、登校の途中でこの親子を見つけたの。捨て猫らしいけど、私のマンションはペット禁止で飼えないし、時雨の家はどうかしら?」

「日中は家に誰もいない事が多いので、私の家もペットは厳しいですね」


 時雨はしゃがんでマルを軽く撫でると、両親は共働きで柚子も大学の講義やサークルに参加しているのでペットを飼える余裕はない。

 凛は鞄からタオルを取り出すと、時雨がマルとチビを抱き抱えて段ボールにタオルを敷き詰めていく。

 本当は食べ物も分け与えたいところだが、空き地の対面にある壁に鳩や野良猫等に餌を与えないで下さいと貼り紙がされている。

 残飯が転がっていれば処理も大変であり、街の景観が崩れて衛生的な面でも問題があるのは承知している。

 便利な物で溢れている世界であるが、この辺りの事情は前世と変わらず、悲しい現実だ。


「私の同級生にも猫を飼える人がいないか聞いて回ったけど、駄目だった。今の私にできる事はこの子達を大切にしてくれる飼い主が見つかる事を祈るぐらい」

「私もクラスの同級生に飼える人がいないか聞いて回りますよ」


 時雨はマルとチビをタオルの敷いた段ボールに戻してあげると、飼い主になってくれる人物を探そうと試みる。

 スマホを取り出して、二匹の愛くるしい姿を写真に収めると、香や加奈を経由してクラスメイト達に情報を共有する。


「なるほど、便利な使い方だわ」


 凛は感心したように眺めていると、早速時雨に返信が返ってきた。

 どれも猫を褒めちぎる内容の文面で、肝心の飼い主になってくれる人物はいなかった。


(くそ……駄目か)


 時雨が途方に暮れていた時に、加奈と仲の良いグループの女子から飼いたいと申し出る返信があった。

 これに一番喜んだのは凛で、思わず時雨に抱きついて喜びを分かち合った。


「さすが時雨ね!? あなたって人は本当に凄い人だわ」

「先輩、お……落ち着いて下さい」


 小柄な時雨は一回り大きい凛に揺さ振られると、視界が安定しない。

 とりあえず、この子達の新しい飼い主が見つかって良かったと時雨も安堵して、明日にここで引き渡す約束を交わした。

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