第245話 無防備
ミュースの用件も済んで楽しい女子会は解散となった。
シェーナはこれからミュースによって元の異世界へ送り帰す準備に取り掛かるそうだ。
「記念に写真でも撮りましょうか」
凛が提案すると、皆は口を揃えて賛成に回る。
女子三人と女神に囲まれたシェーナは照れ臭そうにすると、時雨も輪に入ってスマホの写真に収める。
(良く撮れているな)
写真の具合を確かめると、そこにいるのは思い出の写真に相応しい笑顔が輝いている女子達だった。
後日、スマホがないシェーナにはプリントした写真を渡すと約束して、それぞれ帰路へ就く。
時雨は自宅の玄関先を潜って自室で制服から私服に着替えながら、今日の家庭教師について考えていた。時雨達のために学校の先生に赴任したキャスティルだが、掛け持ちして家庭教師も担当するのは相当ハードなスケジュールの筈だ。
制服のスカートを脱ぎ捨てて、ショートパンツに履き替えたところで後ろを振り返ると、先程脱ぎ捨てた制服のスカートがキャスティルの頭に覆い被さっていた。
「おわっ!? いたんですか」
時雨は驚きの言葉を投げ掛けると、慌てて制服のスカートを取り除く。
まさか音もなく急に現れるとは予想もしていなかった。
「窓のカーテンぐらいは閉めろ。不用心だぞ」
キャスティルはとくにスカートの件で叱責する様子もなく、代わりに部屋の空気を入れ替えようと開けっ放しにしていた窓について注意する。
その辺りの意識は前世で士官学校時代に男所帯で過ごした経験や女性経験が皆無に等しかった影響が色濃く残っているからだろう。誰もいない自室だし、自身の着替えを覗いて喜ぶような輩はいないと思っている。
「いつもこんな感じで着替えているので大丈夫ですよ」
「世の中、色んな趣味趣向の人間がいる。お前は女子高生なんだから、一人の時でももう少し気を配れ」
キャスティルは窓のカーテンを閉め切ると、それとなく注意を呼び掛ける。
「分かりました。以後気を付けます」
時雨のために叱ってくれているのだから、ここは女神様のお言葉を聞き入れて素直に従う。
「今日、明日で家庭教師も最後だ。後は頑張ってテストに臨め」
激励の言葉を送るキャスティルは学校の時と同じくグレー系のスーツジャケットを着込んで家庭教師の仕事を開始する。
時雨はいつものように勉強机に教科書やノートを開くと、気になっていた事をキャスティルと雑談を交えながら窺う。
「キャスティルさんは一人暮らしを始めるんですよね」
「あのお喋り女神から聞いたのか?」
「ええ、受信料の件も含めて聞きましたよ。何か困った事がありましたら、私もできる範囲でお手伝いします」
「子供が余計な心配をするな。テスト勉強に集中して学年一位を取ってくれればいい」
「ははっ……努力します」
それは無理難題な要求だなと時雨が愛想笑いを浮かべて答える。




