第24話 凛の誘い
「そういえば、そろそろ中間テストだと思うけど、勉強の具合はどうかしら?」
「まあ……ぼちぼちですかね」
「あまり自信がなさそうね。よかったら、私が勉強を見てあげましょうか」
大通りの道路に出ると、凛は時雨に中間テストの進捗について訊ねた。
今まで全教科は平均点より少々上ぐらいを維持してきたので、今回もその自信はある。
対して、凛は文武両道の持ち主で全国テストも上位の成績を収めている。
「先輩は受験勉強で忙しくなりそうですし、大丈夫ですよ」
「遠慮しなくていいわ。担任や進路相談の先生とも相談して、私は推薦入試を受けようと思っているの。先生方から出願条件は満たされるだろうとお墨付きも貰ったし、割と余裕があるのよ」
凛なら、難なく推薦入試を突破するだろう。
前世では大国の王族を相手に礼儀作法と巧みな話術で見事に持て成していた実績がある。
そんな凛を知っているので、小論文や面接で躓くとは考えられない。
「本当は大学でも剣道を学んで、天国にいるロイドのために頑張ろうと思っていた。剣を極める事が私にできるせめてもの償いだとね。でも、さっき時雨が私にかけてくれた言葉で違うと確信した」
「私は凛先輩の笑顔でいられる人生を歩んで下されば、それだけで十分です」
「ありがとう。これからは……私のやりたい事をゆっくり見つめ直して考えたいと思う」
「私でよろしければ、いつでも相談に乗りますよ。頼りないかもしれませんが、先輩を支えられるように私も頑張りますから」
時雨はにこやかに答えると、凛も自然と笑顔がこぼれた。
彼女なら、もう迷ったりはしないだろう。
(私も将来をきちんと考えないといけないな)
時雨は自身を振り返って反省すると、まずは目前に迫っている中間テストを無事に攻略しようと決意した。
歩道橋を渡ると、駅周辺には黒山の人だかりができていた。
駅員が拡声器でアナウンスをしているようだが、どうやら変電所で火事が発生したのが原因らしい。
消火活動は今も続いているらしく、運転の再開はまだ目途が立っていない様子だ。
バスやタクシーも長蛇の列になっていて、交通網も影響が出始めている。
徒歩で帰宅するとしても、夜になるのは確実だ。
「今日は私のマンションで泊まっていきなさいな」
「いえ、そんな急に押しかけたりしたら、先輩のご両親に迷惑ですよ。私なら徒歩で帰りますから……」
時雨は凛の誘いを断ろうとする。
凛の両親もそうだが、上級生で生徒達の憧れの的である彼女の家に泊まって、あらぬ誤解や噂が広まったりしたら凛に申し訳がない。
「安心して。両親は仕事で海外に赴任中だから、私は一人暮らしなの。だから遠慮する事はないわ」
凛が時雨の手を引くと、彼女が住んでいるタワーマンションがある方向に歩き出した。
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