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第238話 一身上の都合

 一限目の授業が終わり、休み時間になると同時に香が時雨に抱きついた。


「時雨ちゃん、保健室で加奈に変な事されていないよね?」


 途中で加奈と教室を抜け出し、二人がいない間は気が気でない様子だったようだ。


「大丈夫だよ……」


 ダークエルフの加奈にベッドで押し倒された挙句、キスされて大丈夫と報告するのに心は若干痛むが、教室では噂好きの同級生達が時雨達の保健室でのやり取りが気になって聞き耳を立てているので下手な事は言えない。


「そうそう、二人で仲良くベッドで寝ていただけだから大丈夫よ」


 加奈も追随して口にするが、それは世間一般的に大丈夫じゃない。

 信じられないと開いた口が塞がらない香はさらに時雨をギュッと抱きしめる。


「ずるいよ! 僕の時雨ちゃんと一緒に寝るなんて」


「ふふ、早い者勝ちよ」


「次の授業、今度は僕と保健室へ行くからね」


 堂々とサボり宣言をする香に周囲の同級生達はいつもの光景だなと微笑ましく見守る。

 加奈も半分面白可笑しく香を煽ってこの場を楽しんでいる。

 香は時雨の手を引いて善は急げと行動へ移そうとすると、教室の扉が乱暴に開かれる。


「おら! 休み時間は終わりだ。授業を始めるから席に戻れ」


 二限目はたしか化学の授業だった筈だが、現れたのはいつもの先生ではなく先程保健室で顔を見せたグレー系のスーツジャケットを着込んだキャスティルだった。


(あの人、何やってるんだ……)


 正確には人ではなく女神なのだが、そんな些細な問題よりどうして教壇に立っているのか。

 それは香と加奈も同じで、加奈は冷や汗を掻きながら先程の件でまだ苦言があるのかと察して機嫌を損ねない程度にごまをする。


「これは女神様。そんな怖い顔は美しい貴女様に相応しくありません。まだ何か御用がおありで?」


 腰を低くして手を擦りながら精一杯の対応をする加奈に対して、キャスティルは睨みを利かせて趙著なくアイアンクローを決めながら返答する。


「聞こえなかったのか? 授・業・だ」


「ひいい! 痛いです。ギブギブ」


 加奈の悲鳴が轟くと、同級生達の間に戦慄が走る。

 時雨は動きが止まった香の手を逆に引いて席へ戻ると、危うく加奈の二の舞になるところだった。

 解放された加奈も頭を押さえながら席に着くと、簡単な自己紹介が始まる。


「前任者だった先生は一身上の都合で別のクラスを担当する事になった。今日からこのクラスで化学を担当するキャスティルだ」


 この場合、女神から放たれる一身上の都合は時雨の知らない何らかの魔法や圧力が働いていそうで怖い。


 同級生達の反応は「目付きが鋭い」、「凄い美人」、「姉後肌」、「強そうだけどオークに弱そう」、「ドSっぽいけど実はドM」、「お姉さま」と様々な評価が聞こえてくる。


(皆、刺激するような事は……)


 まるで爆弾に引火しないかハラハラするような感じで時雨は身構える。

 ざわめきで言いたい放題のキャスティルはチョークを片手に取ると、女子生徒達の間を縫って弾丸に匹敵するような速度でチョークを投げる。


「うるせえぞ! さっさと教科書とノートを開け」


 彼女が一喝すると、投げたチョークは掃除用具のロッカーに直撃して貫通している。

 それを目の当たりにした同級生達は息を呑んで素直に従った。

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