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第236話 かくれんぼの結末

「まさか……本当に本物のダークエルフなのか!」


 目を見開いて紅葉は加奈を見ながら、驚きの声を上げる。

 この世界には魔物はおろか、他種族のエルフやドワーフも存在しない世界観だ。


「信じられない話だが、私を含めて凛や時雨が異世界転生をしている事実を踏まえて考えればあり得る話かもしれないな」


 紅葉は納得しながら、加奈のピンと立てた長耳にそっと手を伸ばす。


「止めて下さい!? 他人に触られると感じちゃうので……」


「これはすまない」


 加奈はたまらず拒否すると、布団に被って身を隠してしまう。

 長耳がゆらゆら動く形が可愛らしくて、つい猫を撫でる感覚で触ろうとしてしまった。


「しかし、彼女をこのままにしておくのはまずいだろう。直に養護教諭の先生がやって来るぞ」


「大丈夫です。炭酸水を飲めば元の姿に戻りますので、後でベッドの下にいる時雨に食堂の自販機で買ってきてもらう予定でした」


 紅葉が懸念していた心配事を加奈は布団に丸まって顔を出すと、解決法を導き出す。

 ベッドの下を指差す彼女に対して、凛と紅葉はまさかと思いながら指示す場所を覗き込む。


「あ……」


 人一人がギリギリ入れる窮屈なスペースで時雨は二人と目が合ってしまうと、咄嗟にスカートを押さえて、この状況に苦笑いを浮かべるしかできなかった。


「あらあら、騎士様がそんなところで何をしていたのかしら?」


「……童心に帰って、加奈とかくれんぼをしていました」


「へぇ、それは楽しそうね。機会があれば、今度は私も時雨とかくれんぼしたいなぁ」


 目が笑っていない。

 凛の瞳には静かな怒りが見え隠れしている。


「授業中なのに、かくれんぼとは感心しないぞ」


 紅葉は呆れた声で時雨の言葉を鵜呑みにすると、時雨をベッドの下から救出するのに手を貸す。

 そして、加奈は布団から飛び出してある事に気付く。


「時雨、あんた声が……普通に会話ができている」


 凛のジト目に耐え切れず、つい弁明に走ってしまった。

 あの場で何も言わなければ、妙な誤解をされると思ったからだ。

 すんなり思った事を口にして喋れた。

 念のため、もう一度マイクのテストをする感覚で言葉を放つ。


「あー、本日は晴天なり」


 勝手に口が動くような気配もなく、自分の言葉で喋れる。


「どうやら平気みたいね」


 加奈が安堵した声で落ち着きを取り戻す。

 隠れてやり過ごす必要もなくなり、不安要素は取り除かれた。

 後は食堂の自販機で炭酸水を買って加奈に飲ませれば、いつもの日常が戻って来る。

 時雨の飴玉が何故効果を失ったのか分からないが、今は不自由なく言葉を喋れる喜びを噛み締めようと時雨は思う。

 そんな矢先に廊下から誰かの足音が近付いて来る。

 足音は保健室の前で止まると、入り口の扉がゆっくり開く。


「お前等、ここにいたのか」


 現れたのはグレー系のスーツジャケットに身を包んだキャスティルだった。

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