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第234話 かくれんぼ

 加奈は躊躇なく時雨を抱き枕のようにして密着する。

 本当は声を出して抵抗したいところだが、そんな事をすれば飴玉の効果で確実に声が教室の外に洩れる。

 異変に気付いた教師が保健室へ入れば、言い逃れできる自信がない。

 時計の針が静かに音を立てながら、保健室の空間は非日常的な状況が続いている。

 まさか、ダークエルフとベッドを共にしている女子生徒がいるとは誰が想像できるだろうか。


「ふふっ……本当は時雨もこの状況を楽しんでいるんじゃない? 普段は女の子達に気を遣って刺激が足りない学校生活より、ちょっと危ない橋を渡って危険を楽しむのも悪くないよ」


 楽しむどころか、誰かに見られるのではないかと不安に駆られてしまう。

 多分、この場を楽しめる性格の持ち主は流行りの異世界転生した世界で冒険者に向いているだろう。時雨は堅実的な性格の持ち主なので、やはり国に仕える騎士がしっくりくる。

 密着から解放されると、時雨は懐にある手帳で筆談を交わす。


『楽しんでいないよ! 早く炭酸水を飲んで元に戻って』


 端的に思っている事を加奈にぶつける。

 こんな事なら、保健室へ行かなければよかったと後悔してしまう。


「それは嫌。ここ最近は学校から帰っても女神様と勉強だったし、息抜きが必要よ」


 加奈は再度時雨を抱き締めると、時雨は頑なに拒否する。

 息抜きに関して気持ちは分からなくもない。

 最近は時雨もボカロ曲を聴く余裕もなかったので、中間テストが終わったら存分に楽しみたいところだ。


「私は……あの時の味が欲しいの。男女の味を均一に整えている時雨はダークエルフの私にとって最高のデザート。だから、私ともう一度キスをお願い」


 目がとろけている加奈は時雨の返答を待たずに、さらにギュッと抱き締める。

 まるで得物を逃がさないように。

 加奈は激しく舌を入れて狂ったように夢中になると、どうやら目当ての味を堪能できているようだ。


 美人なダークエルフに唇を奪われながら、為す術もなく時間は過ぎていく。


「ふう……美味しかった。時雨とのキスはやっぱり最高ね」


 抱き締めたままの状態で、加奈はキスの余韻に浸りながら感想を述べる。

 大人っぽい外見とは裏腹に子供っぽい表情を浮かべる加奈を見ていると、本気で怒るのがバカバカしくなる。

 加奈にとって、時雨とのキスはあくまでデザートを摘む感覚なのだから。


(やれやれ……)


 時雨も抵抗はしたものの、心の奥底で悪い気はしないと思っている自分がいるのを自覚している。

 香やキャスティルにムッツリスケベと不名誉な事を言われても仕方がない。


「凛、大丈夫か?」


 突然、保健室の扉の開く音が聞こえると聞き覚えのある声が耳に届いた。


「ええ、このぐらい大した事ないわ」


 相手は二人。

 どちらも時雨のよく知る人物だ。

 余韻に浸って異変に気付くのに遅れた加奈はそっとカーテンを開けて様子を窺う。


「まずい……凛先輩と紅葉先輩だ」


 何と言う絶妙なタイミングで訪れたのだろうか。

 この状況は非常にまずい。

 閉め切ったカーテンの先には、はだけた制服姿のダークエルフとベッドで一緒にいる。

 時雨は慌てて筆談を取ろうとすると、握ったペンを落としてしまう。


「あら、カーテンが閉まっているけど誰かいるのかしら?」


 凛が閉まっているカーテンに気付くと、徐々に距離を縮めて足音が近付いて来る。


(隠れないと!)


 時雨は咄嗟に起き上がると、緊張感のあるかくれんぼが開始された。

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