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第23話 凛の心情②

「姫、何か辛い事でもあったのですか?」


 時雨は凛の背中を優しく擦ると、彼女の気持ちを落ち着かせようと努めた。


「ちょっと目にゴミが入っただけだから、大丈夫よ」

「……私が律儀な男なら、姫は嘘が下手な女ですよ。何年仕えていたと思っているのですか」


 凛が嘘を付いているのは明白だった。


「私にも話せない事情なら、無理に聞いたりしません。今の私は頼りない女子高生ですが、姫のお力になれる事でしたら喜んで協力致します」


 時雨はハンカチで凛の涙を拭いてあげると、精一杯の気持ちを彼女に伝えた。

 かつてのように剣を振るう力はないが、相談相手として役に立てる事はあるだろう。


「敵わないな。私の事は何でもお見通しなんだね」


 凛は微笑んで時雨に背を向けると、声を震わせて語り出した。


「私がこうして転生できたのは時雨……いえ、ロイドのおかげ。あなたがもう一度私に生きる機会(チャンス)を与えてくれた。幸いにも桐山凛は運動神経が抜群で剣道の大会も優秀な成績を収める事ができたし、天国にいるロイドのような強い騎士になれば……きっと許してくれるだろうとね。でも、ロイドは天国にいるどころか私の近くにずっといた」


 時雨が現れるまでは毎朝欠かさず、凛は空を見上げて祈りを捧げていた。

 転生云々はどういう仕組みか分からないが、凛は前世で崖から転落死を遂げてしまったのは自身のせいで、時雨を巻き込んでしまった事に負い目を感じていた。


「私一人で馬車に乗り込んで舞踏会に向かっていれば、あなたは死なずに済んだ。騎士としてロイドの積み重ねた努力を全て私が奪ってしまった。今朝の表彰式も天国にいるロイドのために精一杯頑張ったけど……それは私の自己満足だと気付いたの」

「私が不甲斐ないばかりに姫には重い十字架を背負わせてしまった。私の努力に比べれば、姫は大勢の民を笑顔で暮らせる国にしようと努力されてきたことを傍に仕えていた私は誰よりも知っています。これからの人生は姫の……桐山凛としてどうか思うがままに生きて下さい。それが姫の傍に仕えていた騎士としての願いです」


 時雨の言葉に凛は心の中で抑え付けていた感情が解放される。

 時雨は凛を自身の胸に引き寄せると、彼女を優しく抱き締める。

 溢れんばかりの涙と感情の荒波を時雨はきちんと汲み取っていく。


「今まで、お一人でよく頑張ってこられました。改めて、これは私からのプレゼントです」


 時雨は凛の手首を握ると、彼女の手の甲にキスをする。

 姿形は変わらうと、思いは変わらない。

 たとえ、またお互いが転生しても、次もきっと――。


「ありがとう……私はもう大丈夫よ。そろそろ行きましょうか」

「ええ、お供致します」


 二人は笑顔で手を繋ぐと、駅を目指して歩き始めた。

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