第228話 ゆでたこの女神
「やっぱり、風呂上がりのビールは格別に美味いな!」
キャスティルは自販機で缶ビールを買うと、そのまま勢いよく流し込む。
時雨もコーヒー牛乳を口にしながら、ゆでたこ状態で仰向けになっているシェーナを介抱する。結局、サウナにどっぷり浸かる結果になったシェーナは文字通り身体の芯まで温まったが、その代償は大きかった。
(ご愁傷様)
扇風機と団扇を扇いでシェーナの回復を待っていると、うめき声を上げて苦しそうだ。
「その程度で音を上げるとは根性が足りんな」
すでに二杯目の缶ビールを飲みながら、キャスティルはやれやれと言わんばかりに呆れた声を出す。
「あんな長時間サウナに入っていれば、普通こうなりますよ。キャスティルさんは大丈夫なんですか?」
「全然。本当はもう少し入りたかったが、こいつが倒れちまったからな」
あっけらかんとした返事が返ってくると、どうやらこちらの女神は心配なさそうだ。
「私はそこのマッサージチェアでリフレッシュしているから、そいつの面倒を頼んだぞ」
キャスティルは二杯目の缶ビールを飲み干すと、シェーナを時雨に任せてマッサージチェアでくつろぎ始める。
上司のキャスティルが部下のシェーナの面倒を見るのが筋だと思うが、多分通説を唱えたところで嫌がるのが目に見える。
先程の番台の女性が親切にも湯冷めしないようにバスタオルを体にかけて、飲料水を用意してくれた。
幸いにも飲料水を少量ずつ口にする事ができて、快方に向かっている。
そんなシェーナを覗き込むんでいると、時雨の中である思いが募る。
(私と同じ前世が男だったとは思えないな……)
傍から見れば、銀色の長髪を下ろした美人のお姉さんにしか見えない。
今の無防備な彼女を前にしたら、大抵の男は下心丸出しでその色気に吸い寄せられてもおかしくない。
時雨と打ち解けて俺様口調で喋る彼女を知っているだけに、胸の奥でドキドキしてしまうのは複雑な心境だ。
「ルトルス、水を頼むよ……」
うわ言のように誰かの名前を呟く。
多分、異世界の人物でシェーナにとって大切な人なのだろう。
「はいはい、慌てずに飲んでね」
「ありがとう……もう少し横になっているよ」
時雨はシェーナの身体を起こしてペットボトルの飲料水を飲み易い形で飲ませる。
礼を述べると、シェーナは再びぐったりする。
何となくだが、男子高校生だった残滓が窺えた。
先程より口数も増えて意識もしっかりしているので、もうしばらくこのままの状態でシェーナの介抱を続けた。




