第226話 女神とお風呂②
こうなっては仕方がない。
一刻も早く風呂から上がって脱出を試みた方が懸命だ。
「言っておくが、烏の行水はなしだ。折角金を払って銭湯へやって来たんだから、身体の芯が温まるまでここから出さないからな」
どうやら考えている事はお見通しのようで、完全に退路を断たれた。
(これはまずい展開だ……)
冷静になって現状を把握すると、この場にいるのは横暴な女神と時雨と同じ境遇の半神だ。
どちらもスタイル抜群の裸体の美女が映し出されている光景は前世の記憶がある時雨にとって天国と言えるだろう。
それだけに目のやり場に困ってしまう。
「すまん……時雨、少し作戦を考えてみたが聞いてくれるか?」
シェーナは時雨に視点を合わせると、胸に秘めている恥羞恥心を押し殺して胸元を揺らしながら時雨の耳元で囁く。
思わずその光景に目が入ってしまい、生唾を飲んで平常心を奪われそうになるが、腕をつねって痛みで誤魔化す。
「別に……謝らなくていいよ。何か妙案があるのなら、喜んで協力する」
「あそこの別室はサウナ施設になっている。五分ぐらいサウナに浸かれば身体も一気に温められる筈だ。二人同時にサウナへ入ればキャスティルさんに阻まれるだろうし、一人が引き止め役として時間を稼いている間に、もう一人はサウナに入ろう」
「少しずるい様な気がするけど……」
「このまま黙って普通に入浴して温まっていたら、他の女性客が現れるかもしれない。そうなったら平常心を保っていられる保障はどこにもない。負けたら、キャスティルさんの罰ゲームを受ける羽目になる」
たしかにキャスティルは身体の芯が温まるまでここから出さないと明言したが、その方法までは指定していない。サウナで一気に温まるのは騎士として反則行為に等しいと思えるが、キャスティルの罰ゲームはたしかに受けたくないのが本音だ。
「作戦は理解したけど、失敗したら大目玉喰らいそうだな」
「どの道、普通に入浴していたらジリ貧になって俺達が圧倒的に不利。一発逆転を狙うなら、この作戦しかない」
「……分かった。それでいこう」
シェーナは真に迫った感じで作戦を力説する。
伊達に異世界で女騎士や料理屋を経営しているだけあって、ピンチの切り抜け方は心得ている。
時雨も無事に生還するにはこの作戦に乗るしかないと判断して、小さく頷く。
「よし、私が先にサウナ施設へ入る。その間は時雨がキャスティルさんの気を引いていてくれ」
「あまり自信がないけど、何とか頑張るよ」
「お互いベストを尽くそう。そして俺達は生きて帰るんだ」
シェーナが片手を差し出すと、時雨はそれに応えるようにハイタッチをする。
そして戦いの火蓋が切って落とされた。




