第22話 凛の心情
教室に戻ると、授業が始まって窓際の席にいる時雨は日当たりの良い環境で窓の外をぼんやり眺めていた。
(何か悩み事でも抱えてらっしゃるのか……)
先程の表彰式で見せた凛の表情が忘れられない時雨はかつての主人を心配していた。
前世からの主従関係で傍に仕えていただけに、彼女の心情の変化は誰よりも理解している。
机の引き出しに閉まっていたスマホがメールを受信すると、時雨はそっと机からスマホを取り出して確認する。
『授業中にぼっーとしてちゃダメよ?』
まるで時雨の様子をどこかで見ているかのような文面だが、窓の外をよく見ると校庭で上級生の生徒達が美術の授業で写生を行っている。
そこには凛の姿もあって、目が合うと時雨に軽く手を振ってみせた。
壇上の時と違って笑顔を覗かせていると、友人達が楽しそうに凛と合流して、花壇がある場所に移動していった。
時雨は凛が見えなくなるまで目で追っていると、席の横で誰かが時雨の肩を叩いた。
横を振り返って見ると、そこには仁王立ちになって怒りを露にした先生が立っていた。
どうやら黒板に書かれていた問題を時雨に解いてもらおうと指名していたらしく、それに気付かなかった。
「すみません……ぼっーとしてました」
「放課後、職員室に来るように」
時雨は素直に謝ると、その後の授業は集中して気分を一新する。
放課後に職員室でこっ酷く絞られると、解放された時には夕刻を回っていた。
学校に残っている生徒も少なく、香も今日は用事があると言っていたので先に帰っている。
誰もいない教室に戻って鞄を取りに行くと、時雨も帰る仕度を整えて校門を出ようとした。
「随分と遅い帰りね。待ちくたびれてしまったわ」
校門前で時雨を呼びかけたのは背伸びをして退屈そうにしていた凛であった。
「凛先輩!? 私を待っていてくれたのですか?」
「ええ、そう言ってるじゃないの。途中まで一緒に帰りましょう」
まさか自分を待っていてくれたとは思ってもいなかったので驚いた声を上げてしまった。
二人は並んで歩き出すと、時雨は申し訳なさそうに謝る。
「先輩を……姫をお待たせしてしまって申し訳ありません」
「相変わらず律儀な男……じゃなくて今は女の子か。今日はこうして時雨と歩きたかったから気にしないで。それとも私と一緒に歩くのは嫌だった?」
「そんな事はありません!? とても光栄です」
時雨は背筋を伸ばして答えると、その様子に凛は可笑しくなって笑ってしまった。
「ふふっ、本当に時雨は昔と変わらないね。何だか少し安心するわ」
丁度、夕日が眩しく凛を照らすと、より一層彼女の心が透けて見えた。
凛は時雨の肩に寄り添うと、涙が頬を伝っていた。




