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第219話 新米女神

「時雨ちゃん、また明日ね」


 自宅前で香と別れると、時雨はそのまま玄関先を潜り抜けて自室に入って行く。

 帰り際で神経を尖らせて悩み抜いた反動なのか、疲労感が時雨に圧し掛かる。


「只今戻りました」


 自室の扉を開けると、キャスティルがソファーに座ってくつろいでいる。

 それは別に想像していた光景だったのだが、部屋の隅で見知らぬ女性が正座をしているのに気付いた。

 多分、彼女が新米女神なのだろう。


「早かったな。あの子とはもういいのか?」


「ええ、大丈夫です。その……先程はありがとうございました」


 誤解も解けて、時雨は深々と頭を下げてキャスティルに礼を言う。

 不安に駆られて現実を受け止めるのが怖かった時雨の代理にキャスティルが背中を押して真実を問い質してくれたのは感謝している。

 香の話では久々に叔父の片桐と夕飯の食事を囲むようで、そのついでに勉強も見てもらうようだ。一歩間違えれば、援助交際の現行犯で片桐は懲戒免職、香は停学か運が悪ければ退学もあり得ただろう。


「別に礼を言われるような事はしてねえよ。とりあえず、制服を着替えて席に着け」


「分かりました。その前に先程から気になっていたのですが、彼女が新しい女神様なのですか?」


「ああ、そういえば紹介がまだだったな」


 キャスティルが思い出したかのように、部屋の隅にいる女性に自己紹介をしろと促す。

 女性は透き通る白い肌に銀色の長髪が特徴的で顔立ちの整った美人だ。背広のスーツを着こなして、年齢は姉の柚子と同じぐらいの年齢だろう。

 姿勢を正して立ち上がると、簡単な自己紹介を始める。


「女神見習いのシェーナ・ウラバルトです。どうぞよろしく」


「私は鏑木時雨です。美しい女神様とこうして出会えて光栄の極みです」


 シェーナが握手を求めると、時雨もそれに応じる。

 第一印象はミュースのような良識のある女神で一安心。

 さすがにキャスティルのような暴君女神だったら、一人だけでも大変なのに神経が擦り減ってしまうところだ。


「そいつはお前さんと境遇が同じの半神だ。前世はこの日本で生まれ、転生後は別の惑星で育った貴族令嬢だ」


「えっ!?」


 キャスティルが補足して語ると、このシェーナもどうやら時雨達と同様に異世界転生の経験者らしい。時雨達は時代背景で考えれば中世から現代に異世界転生したのだが、シェーナは現代から中世の時代に異世界転生した。


(テンプレ通りの異世界転生だなぁ)


 シェーナの場合、アニメやライトノベル等で流行っている異世界転生と酷似している。

 どうやら、週に二日は女神、残りの五日は人間として暮らす契約を結んでいるらしく、明日まで女神の仕事をこなしてもらうが、その後は転生後の惑星に戻って人間の生活。契約中はこのローテーションが基本となり動いてもらう事になっているらしい。余談だが、冠婚葬祭の有給は認められているようで、女神の仕事を優先に親の死に目に立ち会えないと言う事はないようだ。


「よし、自己紹介も済んだし制服を着替えてから勉強を始めるぞ。見習いも準備をしろ」


 キャスティルは手を叩いて機敏に指示を下すと、時雨から視線を逸らして背を向ける。昨日は時間のロスを気にして応じてくれたが、てっきり忘れているか、面倒臭いからと難色を示して着替えを覗かれると思っていたが、きちんと配慮してくれた。

 シェーナはいち早く背を向けて照れながら対応してくれると、何だか鏡に映った時雨自身を見ているようで妙な親近感が湧いてしまう。


(更衣室ではこんな風に映っていたかもなぁ)


 シェーナを見ていると、香や加奈が時雨にちょっかいを出してしまう気持ちも分からなくはないなと時雨は思った。

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