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第218話 叔父と姪

「よお、そこのお二人さん。随分と仲が良いじゃねえか」


 突然、何の前触れもなく話しかけられた二人は声の方向に振り返る。

 すると、キャスティルと時雨の姿に気付いた香は呑気な声で手を振る。


「時雨ちゃんと女神様だ。二人も今から帰るところ?」


「馬鹿お前……人前でその呼称は止めろ。キャスティルさんと呼べ」


「あっ、ごめんなさい」


 香がうっかり正体に繫がる女神を口にすると、キャスティルは慌てて訂正を促す。

 女神とは程遠い言動や威圧的な態度が目に余って誰も信じないとは思うが、現状の問題はそこではない。


「おや、これは奇遇だね」


 てっきり生徒と一緒にいる現場を抑えられて苦し紛れの言い訳をするのではないかと想像していたが、片桐は学校にいる時と変わらず普段通りだ。

 事の重大さに気付いていない図太い神経の持ち主なのか、それともこの場をやり過ごすだけの言い訳を用意しているのだろうか。


 時雨は無言でキャスティルと香を押し退けると、挑戦的な勢いで片桐に詰め寄る。


「香ちゃんとは幼馴染で嬉しい時や辛い時はいつも一緒に分かち合った仲です。それなのに……どうしてこんな事になったのか」


「鏑木さんの事は香ちゃん……じゃなくて笹山さんからここに来るまで色々と聞かせてもらったよ。とても信頼できる良い友達が傍にいて安心したよ」


「今更笹山さんと言い直して弁解するつもりですか。貴方は学校の教師でありながら、香ちゃんなんて下心のある呼び方をして恥を知りなさい!」


 何が信頼できる良い友達だ。

 私はそれ以上の関係だとでも言うのか。

 時雨は我慢できずに声を荒げると、ひどい煽られ方をされたと受け取ってしまう。


「そうだね……学校では教師と生徒。生徒の前でプライベートな呼び方は咎められて当然だ」


 片桐が反省の色を見せると、時雨の言葉に納得して頷く。

 息巻く時雨を目にして、香は訳が分からず首を傾げていると矛先が片桐から香に変わる。


「香ちゃんも見損なったよ! お金のために援助交際に手を染めるなんて私は悲しいよ」


「えっ? 僕は援助交際なんてしてないよ」


 この期に及んで香も言い訳をするつもりなのか。

 純情無垢な心が香の中に残っていると期待していたが、すっかり心も黒く染まってしまったのだろうか。


「片桐先生と一緒じゃないか! 教師と生徒が楽しそうに腕を組んで歩きながら、お金を受け取ったのをこの目でハッキリと見ているんだからね」


 これで言い逃れはできまいと時雨は核心を突く。

 すると、香はやっと状況が呑み込めたのか笑いを浮かべてしまう。


「あはは、それは違うよ。満っちは僕のお母さんの弟で叔父さんだよ」


「……叔父さん?」


 今度は逆に時雨が停止してしまうと、困惑の色を隠せない。

 香は簡単に説明すると、香の母親は今の旦那に嫁いで笹山の姓を名乗り、旧姓は片桐。母親の弟である片桐は叔父に当たり、香とは紙おむつを交換していた時から面倒を見ていたそうだ。


「要するに叔父と姪の関係か」


 キャスティルはつまらなそうに呟くと、それが全ての答えだ。


「じゃあ、さっきのお金は?」


「お年玉だよ。本当はお正月に会って渡すつもりだったけど、仕事の都合で挨拶に来られなかったんだ。優しい満っちはおまけでお小遣いも上乗せしてくれたし、時雨ちゃんの想像している援助交際は一切ないよ」


 ルンルン気分で香が返答すると、時雨の怒りはすっかりどこかに消え去ってしまった。

 その代わりに恥ずかしさが込み上がって、勘違いしていた自身に腹が立って仕方がない。


「ふふっ、僕は時雨ちゃん一択だよ。満っちに嫉妬する姿の時雨ちゃんがとても可愛い。お金なんかより時雨ちゃんとこうしてギュッとしているのが一番好きだよ」


 香は時雨の耳元で囁くと、今度は時雨の腕を組んでゆっくり歩き出す。

 付き合いきれんとばかりにキャスティルは先に時雨の自宅へ向かうと、片桐も二人の邪魔をしないように道を譲ると、別の道を辿って香の自宅へと向かった。

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