第217話 援助交際? ②
小さかった頃から、いつも時雨の後を追って慕ってくれた香は無邪気で穢れの知らない可愛らしい女の子だったのに、時雨の知らない間に心が黒く染まってしまった香を見せつけられるのは拷問である。
「どうしてこんな事に……」
登下校は手を繋いで歩く仲だった筈だ。
神社の境内で不埒な行いに発展しそうになったりもしたが、いつも時雨を慕っている様子から男性相手の援助交際やパパ活には無縁だと思っていた。
「まあ、あの手の娘はおっさんに好かれそうなタイプだからな。金回りもいいんじゃないか?」
「香ちゃんはそんな娘じゃありません!?」
時雨はキャスティルの見解を全否定する。
たしかに最近は金欠に悩んでいたが、アルバイトを探そうかと話していたところだ。
援助交際をアルバイトと履き違えて稼いでいるのなら、それは絶対に間違っている。
時雨の頭によろしくない香の偶像が思い浮かぶ。
『僕はうぶな時雨ちゃんが好きだけど、あーし本当はお金回りの良いおじさまの方がもっと好きなんだ』
悪い方向にばかり考えが巡ると、時雨は現実を直視するのが恐ろしくなってしまう。
「そんなに心配なら本人に直接確かめろよ」
「た……確かめなくても平気ですよ。きっと大丈夫です」
そんな訳ないのだが、時雨の心に複雑な葛藤が芽生えて正常な思考ができないでいる。
腕を組んでいた二人はさらに追い打ちをかけるように、時雨の精神をえぐる。
「少し遅くなったけど、これを香ちゃんにあげるね」
「わあ!? こんなに貰っていいの?」
「お正月やここ最近まで会えなかったし、お小遣いも兼ねて……ね」
片桐の言葉から香ちゃんと言葉を発するだけで怒りが湧き立つのだが、意味深に財布から二万円を抜き取って香に手渡す現場を目撃してしまうと、これはもう確定的だ。
「姉さん……いや、お母さんは元気にしている?」
「うん、相変わらず元気だよ。お母さんも満っちに会いたがっていたから、早く夕食の買い物を届けて一緒にご飯食べようね」
二人はそんな会話をしながら、香の自宅へ片桐を招くようだ。
まさか、堂々と生徒の自宅へ上がり込んで親子に毒牙を――。
香の母親はおっとりした性格で見た目も若い。
一見すれば、香の姉と勘違いしてしまうぐらいだ。
「金銭授受の現場、親子揃って夕食とは凄い関係性だな。これは今晩親子丼かもな」
時雨は女神らしからぬ俗語を喋るキャスティルに対して咎める余裕もなく、明らかに狼狽の色を隠せない。
「うじうじ悩むな。私も付き添ってやるから、真実を問い質すぞ」
見兼ねたキャスティルは強引に時雨の手を引っ張ると、心の準備もできないまま腕を組んで歩いている二人に声を掛けた。




