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第216話 援助交際?

「突然だが、お前達に重要な知らせがある」


「重要な知らせ……何でしょうか?」


 おつまみの枝豆を口にしながら、キャスティルは緊張感のない声で重要な知らせを告げる。

午後の授業風景を観察していたのを加味して、スパルタな勉強を強行すると告げられても驚きはしない。


 時雨は神妙な顔で窺うと、キャスティルはそんな時雨の心情を察して言葉を続ける。


「別に説教の続きや勉強量を増やすとかではない。上層部が新しく登用した新米女神をこちらに派遣するとかで人事の追加だ」


 まるで会社の新入社員を派遣するような言い回しだが、その考え方で間違いないのだろう。

 しかし女神に登用されて派遣された先がミュースやキャスティルのような凸凹上司に囲まれるとは新米女神も苦労しそうだ。


 加奈は周囲に聞こえない程度に時雨へ耳打ちする。


「新米女神って、あのヤンキーみたいな女神は勘弁して欲しいわね」


「まあ……そうだね」


 加奈はキャスティルをヤンキーと例えて、新米女神がどんな性格の持ち主か分からないが、できる事ならミュースのような一般常識のある女神である事を願う。

 時雨は肝心の新米女神がいつ派遣されるのかキャスティルに訊ねる。


「その新米女神様はいつ派遣されるのですか?」


「今日から」


 軽いノリでキャスティルが告げると、それはまた急だなと時雨は思う。

 追加注文のビールがテーブルに並べられると、キャスティルは待ってましたと言わんばかりにジョッキを片手に喉を潤していく。


「のんべえな女神ですみませんね。新米女神については教育係にキャスティルが抜擢されて、今日から現場入りします。申し訳ありませんが、家庭教師の現場を見学させてあげて下さい」


「それは全然構いませんが、女神の世界も色々と大変ですね」


「私も新米の頃はキャスティルが直属の上司でしたので、初任務が面白い隠し芸を披露しろって無茶ぶりでしたからね」


 時雨も騎士の身であった時は上司からパワハラに近い待遇を受けていたが、女神の世界も大概だなと豪快なキャスティルを見ていると感じてしまう。


「姉ちゃん、新しいビール追加だ」


 空のジョッキがまた一つ増えると、今も昔も苦労の絶えないミュースに同情を引いてしまうのであった。


 時雨は加奈とミュースと別れて、キャスティルと共に帰路へ就こうとする。

 帰宅ラッシュと重なり、電車は混み合って二人は吊革を掴んで立っている。


「今日は黄色の付箋がしてある箇所を重点的に解いてもらうからな」


「分かりました」


 テーブルが埋め尽くされる程ビールを飲んで足がふらついている様子はなく、素面で普通に会話が成立するのは感心してしまう。


「それにしても、全席禁煙とは思わなかった。日本は治安も良いし、飯が美味くてお気に入りだったのに喫煙者には優しくない世界になっちまったな」


 キャスティルが愚痴をこぼすと、煙草が吸えずに口寂しい思いをぼやく。

 時雨自身は前世で煙草を吸う機会もなかったので喫煙者の気持ちはあまり理解できないが、その分アルコールを摂取してストレス発散していたのではないかと考えてしまう。

 電車は自宅の最寄り駅に到着すると、改札口を通って時雨は新米女神についてキャスティルに訊ねる。


「そういえば、新米女神様は私の自宅までどのような交通手段で来られるのですか?」


「電車を経由して徒歩だろう。久々に故郷の日本に帰れて色々と見て回っているのだろうが、まあ場所は連絡済みだし、問題ない」


「新米女神様は日本の出身だったのですか」


「おっと、余計な話をしてしまったな。新米の女神よりお前は勉強に集中しろよ」


 それ以上新米女神については語らず、キャスティルは口を閉ざしてしまう。

 後ほど合流するのなら、空いた休憩時間に挨拶と共に色々訊ねてみてもいいかもしれない。

 どんな女神様か楽しみである。


「満っち、早く行こうよぉ」


「ははっ、そんなに急がなくてもおじさんは何処にも行かないよ。香ちゃん」


 駅前のスーパーから買い物袋をぶら下げて、腕を組んで歩いている男女が目に入る。

 最近聞き覚えのある単語と声がすると、時雨は目の前の光景に呆然と立ち尽くしてしまう。


「どうした?」


「何であの二人が仲良くここに……」


 キャスティルの問いに答える余裕もなく、夢なら覚めて欲しいと願うばかりだ。

 これではまるで――。


「ああ、この前お前と一緒にいた子か。サラリーマン風の男と女子高生の組み合わせはまるで援助交際だな」


 時雨が疑心暗鬼に陥っている横で、平然と二人の関係性を推察するキャスティルに時雨はとどめの一撃を刺されて打ちのめされてしまう。


(そんな……)


 不甲斐なくその場で愕然とへたり込んでしまうと、キャスティルの言葉も届かず絶望感が時雨を包み込んだ。

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