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第213話 ド直球

 昼下がりの校庭にあるベンチに購買店で購入した菓子パンを頬張りながら、時雨は束の間の休息に浸かっていた。


「お嬢さん、浮かない顔をしているね。可愛い顔が台無しだぜ」


「そのキザったらしい台詞が労いのつもりなら、逆効果だよ」


「そんな邪険にしなさんな。隣座るよ」


 いつもの調子で加奈が時雨の横に遠慮なく座って、購買店で購入したカレーパンを半分にちぎって交渉を持ち掛ける。


「そのあんパン半分欲しいなぁ。私のカレーパン半分あげるから交換してもいいかな?」


「別にいいよ」


 時雨は食べかけだったあんパンを半分に割ると、口を付けていない部分を加奈に手渡そうとする。この手の交換は前世ではなかったが、中学に入学してから、香や加奈といった女友達と頻繁にやり取りをしていたので抵抗感はない。

 初めて香が時雨と交換を持ち掛けた時は頬を赤くして喜んでくれたのを覚えている。

 あの頃は奥ゆかしさもあって可愛い女の子だと思っていたが、今はマットの上で押し倒した挙句に更衣室で下着姿になって弄ばれる始末だ。


(時の流れは残酷だ)


 神様がいるのなら、いや女神様は実際時雨の前に現れたのだから今度愚痴と共に相談に乗ってもらおうかと時雨は思う。


 加奈は交換したあんパンを片手に今日の体育での出来事を振り返る。


「ありがとう。それにしても、今日はあの子積極的だったねぇ」


「そう思うなら止めてくれてもよかったじゃないか」


「嫌よ。私まで先生に怒られて反省文書かされるのが関の山よ」


 それは一理あるのだが、助け舟を出してくれたらあんパンどころか他の菓子パンも加奈に譲っていただろう。今回、友情より保身に走った加奈を責めるつもりはない。


「あの子、時雨のような女の子が好きって散々言ってたからね。野球で例えたら、香はド直球、凛先輩は変化球、紅葉先輩に至っては時雨がド直球か」


「私は別に……ド直球じゃないし」


 時雨は口を濁しながらカフェラテを啜る。

 どちらかと言うと、恋愛のマウンドに立つことすら苦手なのに球を放る事となれば相当の勇気が必要だ。


「ははっ、そんな調子だとまた香のド直球が炸裂しちゃうよ」


「もう、笑い事じゃないよ」


 加奈は空を見上げながら可笑しそうに笑ってしまう。

 こんな調子が続いては反省文を何枚書かされるだろうかと心配になってしまう。

 時雨は首を横に振って気分を変えようと、違う話題を加奈に振る。


「ところで、ミュースさんの家庭教師はどんな感じだったの?」


「家庭教師ねぇ……色々あったのよ」


 遠い目を見るように加奈は思い返すと、昨日時雨と別れた後どうなったのか語り始める。

 加奈の自宅近くでキッチンカーを空いている駐車場に止めて、キャスティルと同様の手順で加奈の部屋まで入ったようだ。両親に悟られない程度に声を抑えて、雑談も交えながら勉強は進められたが、塾から帰宅した優奈が大好きな加奈の顔を見たいがために一直線で部屋に乱入。事情を知らない優奈はミュースを視認すると、姉を誘惑する悪女と勘違いして一波乱が勃発。優奈を説得するまでかなり時間を割いてしまい、家庭教師の勉強どころではなかった。


「優奈ちゃんって、普段は大人びた子だけど加奈が絡むとかなりポンコツな思考になるね」


「まあ、それに関しては否定しないよ。血相変えて包丁で刺し違える勢いだったからね」


 あまりこんな風に例えたくないが、優奈はヤンデレな側面があるから怖い。

 事件性にならなくてよかったが、間違っても優奈の前で加奈と恋愛に繫がるような話題はNGだ。

 例の手鏡を創作したのがミュースだと打ち解けると、優奈は一変して憧れの眼差しで魔法具について語り合ったそうだ。


「大変だったね」


「誤解も解けたから、今度からは大丈夫よ。時雨の方はどんな感じだったの?」


「こっちもお姉ちゃんに見つかって大変だったよ」


 時雨も昨日の出来事を加奈に話し始めると、お互い姉妹で苦労するとは因果な関係だなとしみじみ痛感した。

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