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第206話 可愛い

「さあ、どうぞ」


「いや、待て。家の連中に挨拶するのも面倒だ。直接、お前の部屋まで私は移動するよ。部屋の位置を教えてくれ」


 時雨は自宅の玄関扉を開けようとすると、キャスティルはそれを制止する。

 玄関を通らず、直接部屋に入ろうとするキャスティルだが、まさか泥棒みたいに侵入するつもりなのだろうか。下手をすれば、近所の住人や通行人が警察に通報する騒ぎになりかねない。それなら、家族に軽く挨拶を済ませて堂々と招き入れた方がいい。


「二階のすぐ手前の部屋ですが、人目もありますし、泥棒と勘違いされたら大変ですよ」


「何を勘違いしている。文字通り直接、お前の部屋に移動すると言っただろう。先に入っているぞ」


 時雨の心配を他所にキャスティルはスマホを取り出して画面を操作すると、次の瞬間その場からキャスティルが消えてしまった。幸い、玄関前だったので人目には付かなかったが、時雨は周囲を見渡して消失した女神の行方を捜す。


(どこにもいない)


 キャスティルの言葉を思い出すと、まさか本当に時雨の部屋まで移動したのかと慌てて玄関を駆け抜ける。

 自室の扉を開けると、ソファーにくつろいでいる赤髪の女神の姿があった。


「そんな血相変えてどうしたんだ?」


「急にいなくなるものですから、まさか本当に直接部屋に移動するとは思いませんでした」


 時雨は安堵して自室の扉を閉めると、改めて女神の凄さを肌で実感する。

 女神なら、それぐらいの移動手段は持ち合わせているのかもしれないが、魔法のように詠唱も唱えず先程のスマホを操作して移動した様はファンタジーよりSF世界に近い。


「私はしばらくここにいるから、お前は家族と夕食の時間を過ごしてこい。その後は私が家庭教師としてお前の勉強を見てやろう」


 家族にはキャスティルを学校の臨時講師として紹介するつもりであったが、その手間は省けそうだ。


「時雨、帰って早々家の中を女の子がドタドタ走るのは感心しないわよ。夕飯もうすぐできるから少し料理を運ぶのを手伝ってくれる」


「うん、分かったよ。着替えてそっちに行く」


 階下から母親に注意を促されると、自室の扉を開けて女の子らしい返事をする。

 いつものように制服を脱いで私服に着替えようとすると、少々気恥ずかしい感じでお願いをする。


「すみません、少し着替えますので後ろを向いてもらっててもいいですか?」


「別に女同士だし、普通に着替えてもいいだろうに。まあ、ここでそんな言い争いをしたところで時間のロスだし、素直に従っておこう」


 家庭教師として役目を果たすためにも、ここはキャスティルが折れてくれた。

キャスティルは時雨に背を向けて目を閉じると、時雨はクローゼットから私服を取り出して素早く着替えを済ませる。


「着替え終わりました。後でキャスティルさんにも簡単な夕食をお持ちします」


「終わったか。ほぉ、良い洋服じゃねえか。何だかんだ言って可愛らしい女の子の暮らしを堪能しているな。それと私の事は気にしなくていい。教科書やノートと言った類の勉強道具は勝手に拝借させてもらうぞ」


「わ……分かりました。では後ほどよろしくお願いします」


 自身の正体を知っている者に洋服を褒められて時雨は妙に恥ずかしい気持ちが芽生えると、一礼して母親が待っている台所へ向かう。


(可愛いか……)


 前世では無縁の言葉だったが、今は当たり前のように聞く言葉だ。

 女性として十数年も過ごすと、最初の頃は制服のスカートを穿くだけでも抵抗感が半端なかったが、それも段々慣れてしまった。さすがに普段着でスカートを穿きたいとまではいかないが、前世で育んだ騎士道精神を捨てずに生真面目な性格や恋愛対象が女性なのは今も昔も変わらない。

 夕食の料理を運び始めると、柚子と父親も揃って帰宅して今夜の夕食は久々に家族団らんに過ごす事ができた。

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