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第202話 慈愛に満ちた女神と常識外の女神

 見た目は普通のたこ焼きである。

 多分、ミュースから作り方等を事前に教わっているのだから大丈夫だと思うが、この女神に常識を当て嵌めて考えるのは危険だ。


「時雨、この人何なのよ……」


 まだ震えが止まらない様子の加奈は正気に戻っているが、本調子とは言えない。


「信じてもらえないと思うけど、女神様だよ」


「ごめん、それはちょっと笑えないや」


 嘘偽りのない真実を突き付けるが、どうやら時雨が冗談を述べていると勘違いしているようだ。

 時雨が思い描いていた女神像は慈悲深く慈愛にあふれた存在で、それは加奈も同様である。

 加奈はニット帽を脱いで汗を発散させると、長耳が垂れてしまっている。

 潜在的な力に触れたおかげで、加奈には少々気の毒な事をさせてしまった。


「この方は一応高位の女神様なんですよ。こちらを召し上がって落ち着いて下さい」


 時雨の隣に座りながら小声でミュースが補足する。

 先程作ったクレープを加奈に手渡すと、甘い香りが加奈の食欲を刺激する。

 一口かじると、垂れていた長耳がピンと背筋を伸ばすように逆立つ。


「私の中に渦巻く恐怖が優しく包み込んでいく感じがする」


 無心にクレープを口に放り込んでいくと、いつの間にか震えも収まって顔色の血色も良好だ。


「魔法か何かを使ったのですか?」


「ふふっ、魔法なんて大層な物は使っていませんよ」


 魔法の使役を否定するミュースは微笑みながら時雨の問いに答える。

 よく見ると、加奈の背中を優しく擦っている。


(なるほど、これで安心感を与えていたのか)


 まるで子供をあやす慈愛に溢れた母親のようだ。

 女神と言う称号は本来、彼女のような者に与えられるべきである。


「おい、そろそろ味見をしてくれないか?」


 しびれを切らして、キャスティルが催促する。

 加奈も本調子を取り戻して、これ以上負担を掛けさせるのは不憫なので時雨が率先してたこ焼きを試食する。


「い……いただきます」


 勇気を振り絞って、たこ焼きを口に入れる。


(こ……これは!?)


 強烈な舌触りと共に視界が揺らいで意識が遠退く。

 まるで砂漠の灼熱に足を踏み入れてしまったような錯覚を覚えると、その場で倒れ込み身体全体から悲鳴が聞こえてきそうだ。


「時雨さん! 私の声が聞こえますか」


 ミュースが応急処置を施そうと時雨の額に手をかざす。

 先程の加奈と違って、時雨には魔法を使役して治療に当たっているのが分かる。

 胸苦しい熱さは次第に取り除かれて、時雨の具合は快方に向かう。


「おいおい、大げさだなぁ」


 キャスティルは呑気に眺めていると、自身の作ったたこ焼きを味見する。


「予想通り、なかなか刺激的な味だな」


「キャスティル! 貴女、たこ焼きに何を入れたのですか?」


「たこ焼きだからたこに決まっているだろ。他にはハバネロ、唐辛子、鷹の爪、ワサビを粉末状にして混ぜ込んだだけだ」


 悪びれる様子もなくキャスティルが残ったたこ焼きも口にすると、美味しそうに平らげる。

 辛い食材ランキングの上位に食い込むような物を入れるとはやはり常識を逸脱している。

 時雨の尊い犠牲のおかげで試食会はお開きになると、今後キャスティルの創作料理は絶対口にしないと心の中で誓った。

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