第199話 偽者の姉
翌日、教室で授業を終えた時雨は放課後になって生徒指導室へ呼び出されていた。
中間テストも間近になったこの時期は部活動も制限されて、部室や体育館は静まり返っている。
「えっと……これはどういう事でしょうか?」
置かれている現状に理解できず、副担任の片岡と褐色肌の女性が待ち受けていた。
目で何かを訴えるようにする女性の正体は加奈である。
(何でダークエルフになってるんだよ……)
午後の授業、体調が悪いと体育を見学していた加奈はその後保健室で休んでいた。
授業が終わる放課後まで姿を見せていなかったが、どういう経緯でこんな状態になったのか問い質したいところだ。
「この人は鏑木さんのお姉さんで間違いありませんか?」
片岡は時雨と加奈を見比べて確認を取る。
無論、姉である訳がないのでNOと突き付けたいところであるが、加奈はさらに無言で何かを訴えるような目でこちらを窺っている。
姉妹と言うには似ても似つかない二人だが、加奈の気持ちを汲み取ってYESを突き付けたところで果たして片岡は信用するだろうかと疑問が残る。
下手に話を合わせたら、嘘だとバレた時に時雨もとばっちりを受けて処罰の対象になりかねない。
「そうですよ!? この子はこの世で只一人、唯一無二の妹です」
返答に迷っている時雨に耐え切れず、加奈が口を挟んできた。
あんたの妹は高校受験生だろとツッコミを入れたくなったが、どうしたものか。
「……姉がお騒がせしてすみませんでした」
結局、加奈の勢いに乗っかる事にした。
昨今、見知らぬ者が学校に侵入すれば警察沙汰になるケースも珍しくはない。
逮捕されて身元を調査する過程で人間ではなくダークエルフと判明すれば世間は大騒ぎだろう。
それは加奈自身も望んでいないだろうし、穏便に済ませるには認めるしか選択肢はない。
「お姉ちゃんがどうしてここにいるの?」
片岡の前で妹を演じる時雨だが、本音はどうしてダークエルフの姿でいるのかだ。
「時雨の驚いた姿が見たかったのよ。用が済んだら校舎裏からこっそり帰る予定だったの」
加奈はてへぺろと茶目っ気なドジっ子を演出する。
多分、その言葉に嘘偽りはないのだろう。
学校でダークエルフと遭遇した時雨をこの目で見ようと悪戯心が湧いて決行したが、その前に片岡と鉢合わせてこんな面倒臭い状況を生んでしまったと時雨は理解する。
その行動力には見習いたいところもあるが、別の良いベクトルに向けてはくれないだろうか。
片岡は二人の様子を呆然と眺めていると、加奈はもう一押しするために大胆な行動へ移して疑いを払拭する。
「時雨は私の自慢な妹だから心配でしょうがなかったのよ。お願い、この通りだから許して」
色気を出して時雨を抱擁すると、加奈の胸に時雨の顔をうずめる。
弾力のある胸に為す術もなく、謝罪の言葉を耳にする。
直訳すれば、これで勘弁してくれと精一杯の記しなのだろう。
「わ……分かりました。今回は不問にしますが、次回からは事務室を通して学校へ連絡下さい」
片岡は気圧されて注意を促しながら話を締め括る。
それと同時に時雨も解放されると、二人は生徒指導室を後にした。