第198話 見据えた二人
特製クレープを美味しく食べ終えると、時雨はミュースとキャスティルに礼を言う。
「ご馳走様でした。あんなに豪華なクレープを頂いて申し訳ないです」
「ええ、本当に美味しかったですよ。クラスの皆にもここの店を教えておきますね」
香は満面の笑顔で言うと、店のリピーターになってくれたようだ。
甘い物好きの香はこの手の情報を共有する女子生徒達がいる。
あの特製クレープは黒歴史として伏せてくれるようで、赤字は出したがそれに見合う結果に繫がりそうだ。
「まあ、ありがとうございます。今度は他の転生者さん達も是非連れて来て下さいね」
店仕舞いの支度を整えたミュースはエプロンを脱いで、この前と同じく修道服姿を露にする。物腰が柔らかく、風になびく銀色の長髪が夕日を背景に幻想的に映し込み、彼女の微笑みはまさしく女神である。
「さて、私は少し運動して帰らせてもらうぞ」
真紅の髪が夕日に照らされて、まるで荒々しいキャスティルに鼓動しているかのように見える。
彼女の勝気な瞳が見据えているのは二人組の男女。
一人はよれよれの白衣にサンダル姿が特徴的な男性で年恰好は三十代後半、もう一人は長髪の金髪をなびかせてサングラス、シャツ、ネクタイにロングジャケットを着込んだ二十代後半の女性だ。
「……私も同行します」
「お前はその二人を連れて行け。用があるのは私だろうからな」
キャスティルがミュースを制止すると、「モテル女は辛いねぇ」と冗談めかして二人組の男女に歩み寄る。
「お二人共、キッチンカーで自宅までお送りしますよ。こちらへどうぞ」
「でも……」
時雨はこの場にキャスティル一人を残してしまうのに不安を覚える。
あの男女が何者なのか分からないが、何か因縁めいたものを感じてしまう。
先程見せていたミュースの微笑みもすっかり消えて、その言葉から焦りが見え隠れしている。
「分かりました。香ちゃん、乗らせてもらおう」
「う……うん」
不安そうにする香を時雨の手に引かれてキャンピングカーへ乗り込む。
ミュースも素早く運転席に着いてエンジンをかけると、キャンピングカーは車道を走る。
しばらく無言で車を走らせると、時雨は何が起きているのかミュースに訊ねる。
「ミュースさん、これは一体何事なんですか?」
「キャスティルがここへ来る前、時雨さん達以外の転生者に警告をしたのですが、その際に居合わせた米軍と揉め事を起こしてしまいましてね。それが原因で彼女は今私と働いているのですが、あの男女は米軍関係者です」
「じゃあ、あの女神様を捕まえに来たって事ですか!?」
「いや、多分違いますね。それにあの女神を捕まえるなんて芸当は普通の人間にできませんよ。できるとしたら、時雨さんが昨日出会った二人の女神ぐらいです」
時雨は昨日痛めつけられた黒髪の女神と黒いフードを被った女神を思い出す。
たしかにあの超人的な二人なら抑え込む事ができるかもしれない。
今はその女神達もいないし、あのままキャスティルを放置しておくのはまずいのではないか。
「おそらく報告へ参ったのでしょう。時雨さん達以外の転生者達についてやその身辺で起きた出来事についてね。だから、時雨さん達が心配するような事は何もありません」
ミュースはそれ以上の事は何も語らず、キャンピングカーは時雨の自宅前に到着する。
またもや彼女に心を読まれてしまうと、きっと本当に心配する必要はないのだろう。
機会があれば、その時雨達以外の転生者について知りたいところではある。
何はともあれ無事に我が家へ着いて時雨は礼を言う。
「送っていただき、ありがとうございました」
「慌ただしくなってごめんなさいね。明日もあそこで店を出すから、いつでも遊びに来てください」
「その時は他の転生者も連れて行きますよ」
「ふふっ、約束ですよ」
時雨は約束を交わすと、ミュースは時雨と香を降ろしてその場を去って行った。
番宣になって恐縮ですが、時雨達以外の転生者については同時連載中のTS作品「群雄割拠した異世界では訳アリの人物で溢れていた」に登場する人物です。
今回登場した二人組の男女の他にも、女神キャスティル、カフテラ、ミールもゲスト出演と言う形で登場させました。
第199話以降はキャスティルを残してゲスト出演させるつもりはありません<m(__)m>
今後も面白い作品作りのために筆を執っていきたいと思いますので「姫君は凛として騎士の前に現れた」、「群雄割拠した異世界では訳アリの人物で溢れていた」をよろしくお願いします<m(__)m>